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チビの一言で完全に火がついてしまった空も、片桐を完全に敵と見なした。
しかしはた、と気付く。

(…なんか喧嘩みてぇじゃないか?)

アホな空でも漸く今の状況を把握しだした。
片桐の動きを警戒しながら横目で背後を確認すると、黒高生相手に奮闘する身内三人の姿が見えた。

「鮫ちゃん、これって本当に遊びなのか?それとも最近の高校生の間では喧嘩も遊びのうちなのか?」

「今さら何言ってんだテメェ。楽しければそれでいいだろぉが」

瞳をギラつかせる片桐に、ゾワリと背筋が粟立つ。

空は無表情ながら少々焦りを感じ始めていた。

(痛いの嫌い痛いの嫌い痛いの嫌い…)

片桐が言った通り逃げておけばよかった、と空は後悔した。
しかし既にこの喧嘩を買って、いや売ってしまったのは自分。今さら引き下がるわけにもいかず、せめてもの抵抗とばかりに片桐を睨んだ。

絶体絶命、そう思った矢先



「何をやってる貴様らぁ!!」


よく通る高圧的な声に、誰もが動きを止めた。

聞き慣れた声に空が振り向くと、そこには青筋を浮き上がらせ最高潮に怒りを露にしている和光の生徒会長、九音が腕を組んで立っていた。

九音を中心に、左右には九音と同じく腕に腕章をつけた生徒会の面々と、教師陣たちもいる。
何人かは不良を前に顔を青ざめさせてはいるが。


「警察を呼んだ。他校の生徒は今すぐ帰ってもらおうか」

警察、の言葉に急に慌てだした黒高生の面々は、バタバタと校門を出て行く。



ただ一人を残して。



片桐は呆然と立ち尽くしている空に近付き、耳元に顔をよせた。


「空。再戦はまたな」

そう言ってニヒルに笑った片桐は、女ならイチコロになってしまいそうなほど格好良かったが、空は引きつった笑みを浮かべながら『もう二度と会いたくない…』と心の中で思ったのだった。






「貴様ら。この始末、どうしてくれる」

冷酷な顔つきで眼鏡の奥から冷ややかな目を向けてくる九音に並ばされた四人。

遊二は両手をポケットに突っ込んだままそっぽを向き反省している様子はない。

十夜はヘラヘラした顔で「ごめーん。でも空っちが〜」と空に罪を擦りつける。

人に叱られるという行為に慣れていない蓮城は強張った表情で九音の話をちゃんと聞いていたが傍目からは睨んでるようにしか見えない。

空は丁度いいとばかりに九音にも「夕飯ハンバーグでいいだろ?」と献立の確認をとる。


もはや呆れるしかない九音は溜息を吐き出すと、ことの発端を作った遊二を指さした。


「貴様は鴉間の面汚しだ。大概にしろ」

「あ?」

睨み合う兄と弟。

二人の間には大きな溝があると空は感じたがそれも一瞬のことで、すぐに思考が夕飯の献立へと切り替わる。

二人の間に入り込み無表情で言った。



「それで、ハンバーグでいいんだよな?もう俺の頭の中にはそれしかねぇぞ」

「「……」」


空の介入で気持ちが削がれてしまった二人はお互いに背を向けて歩きだす。

九音はまだ生徒会の仕事があるのか、校舎の中へと消えていった。




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あきゅろす。
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