12
「遊二、こいつに任せて本当に大丈夫なのかよ」
「お前マジ黙っとけ」
「……」
間髪入れず一蹴された空は小さく「もういい…」と呟くと、なぜか赤髪の横に並んだ。
「俺も鬼になる」
鬼役になることで、赤髪にルールを守らせられるし少々ムカつく遊二を捕まえ「ざまぁみろ」と言って見下せるとふんだ空。
突然の裏切りに目を剥く遊二。
「お前なかなか利口じゃねぇか。名は?」
赤髪は興味深げに空を見据えた。
「鷲尾空だ。よろしくな、頑張って捕まえよーぜ」
「空か。俺は片桐輝鮫(カタギリ キサメ)だ」
「輝鮫……じゃあ、サメルン」
「……」
片桐は一瞬言葉を失った。
黒高では一二を争うほどの豪腕と恐れられ『赤い閃光』の通り名まである自分が、まさかサメルンなどとふざけた名前で呼ばれるとは思いもしなかったからだ。
『あのバカ確実に片桐さんにやられんぞ』
『片桐さんにあんな口きいて生きて帰れるわけねぇ』
『巻き添えくわねぇように気をつけねぇと…』
片桐を羨望する下っ端たちは自分たちのリーダーにつけられたまさかのアダ名に驚愕するのと同時に、キレる片桐を想像し戦慄した。
「……サ、メルン?」
「なんだ、嫌か?じゃあ、サメ吉」
酷いネーミングセンスだ。
「………輝鮫と呼べ」
「えー」
不満げな声をもらす空に、片桐は「次変な呼び名で呼んだら殺すからな」と脅しをかけるが、そんなもの通用しないのが空という男である。
「……鮫肌」
「それは肌質だろが!!」
思わず突っ込みを入れてしまった片桐は気持ちを落ち着かせるように息を吐き出すと、空の胸ぐらを掴みあげた。
「テメェ、仲間になるフリして俺に喧嘩売ってんのか?」
「……そんなに、嫌だったのか…?」
空はあまりの悔しさに唇を噛んだ。
(気に入ってくれると思ったのに……俺も腕が落ちたもんだな…)
空は片桐に対して申し訳ない気持ちになった。
小さく「すまん…」と呟けば、解放される胸ぐら。
鬼ゴッコをする気もなくなってしまった。
「……」
しょんぼりと悲しげに肩を落とす空に、なぜか心が傷む片桐。
なぜかはわからない。
でも、空にはこんな顔してほしくないと思った。
「チッ、好きに呼べ」
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