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入学式を無事に終え、教室へと戻ってきた三人は鉞から容赦なく落とされた拳骨に不満の声をもらしていた。
「マジ痛ってぇ、たん瘤出来てるし」
「……暴力教師」
「空っちの嘘つき!全然金太郎じゃないじゃん!オカッパじゃないじゃん!あれはヤクザ――」
「誰が、ヤクザだってぇ?」
背後から聞こえてきたドスの効いた声に、恐る恐る三人が振り返ると、そこにはニヤリと凶悪な笑みを浮かべた魔王が立っていた。
身を持って鉞の恐ろしさを実感した三人は、顔を青ざめさせ脱兎の如く席につく。
空でさえ、胸ぐらを掴んで挨拶を返す余裕すらなかった。
鉞は呆れたように溜息を吐き出すと、教卓の前に立ち一通り教室を見渡したあと声を張り上げた。
「テメェらぁあ、今日はこれで解散だ!明日から遅刻すんじゃねぇぞゴラァ」
「「ふぁいっっ!!」」
全員が声を揃えるその様は、どこかの軍隊にしか見えないだろう。
鉞が教室から出て行き、生徒たちも徐々に帰り支度を始めた時だった。
「おいアレ見てみろよ!」
窓際に座る一人の生徒が、大袈裟なほど大きな声をあげる。
なんだよ、と近くにいた生徒たちが近寄って窓から外を眺めると
「あれって黒高の奴らじゃね?」
「うわっ、マジかよ…殴り込み?外出れねぇじゃん」
「二十人くらい居るぜ。誰だよ、あんな不良高に喧嘩売った奴!」
ただならぬ雰囲気に、他のクラスメイトたちもこぞって集まってくる。
空も何となくつられるようにして窓の外に視線を向けると、そこには二十人ほどの見るからに素行の悪そうな連中が校門を塞ぐようにして立っていた。
全員黒い学ランを着ている。
「……黒高」
苦い顔でポツリと呟いた蓮城も同じ方向を見ていた。
黒高。
和光とはまた違った意味で有名な高校である。
生徒たちは全員、手のつけられない不良ばかりで、近隣で起こる暴力事件の殆どに黒高の名があがるほど、血に飢えた血気盛んな生徒たちが集う、無法地帯のような場所だ。
「黒高?」
不良高の情報などもちろん知らない空は初めて聞く名前に首を傾げる。
「うん、俺、嫌い」
苦虫を潰したように眉をしかめる蓮城。
出回ってしまった噂のせいで、街中で黒高生に喧嘩を吹っ掛けられたことも一度や二度だけじゃない蓮城は、黒高の生徒を毛嫌いしていた。
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