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阿呆な父のせいで借金のカタに売られた鷲尾空15歳は、とある場所に向かっていた。
「ま、まだ着かねーのかよ…まじ、死ぬ…」
辺りは閑静な高級住宅街。
無一文の空は、ここまで三日三晩飲まず食わずのまま歩き続けていた。
高級車が行き交う道を、フラフラとした覚束無い足取りで進む餓死寸前の男。
十中八九、不審者にしか見えない。
現に、犬の散歩をしていたセレブなおば様が空を見て驚いた様に犬を抱きかかえて走り去って行く。
通報されるのも時間の問題だろう。
「この辺りのはず、なんだけどな…」
空は借金取りから渡された紙キレを広げた。
そこには手書きで、ある場所への地図が書き記されていた。
デカデカと矢印で『ココへ行け』ということと、フニャフャと適当な道が書いてあるだけの、もの凄くアバウトな地図だ。
空がここまでやってこれたのは、野生の勘というところか。
「お、ここだ!」
目的地である場所に到達した空は、ヨーロピアン風の洋館を前に取り敢えず中に入ろうと門に手をかけた。
「……あれ?」
だがしかし、引いてみるが開かない。
押してみるが開かない。
何を小癪な、と空が遂に足をあげて強行突破に出ようとした瞬間、視界の端にインターホンを見つけた。
「……なんだよ」
誰に言うでもなく呟く。
空は一端足を下げ、トコトコとインターホンに向かう。
何と防犯カメラ付きだ。
空は幾分緊張した面持ちでボタンを押した。
リンゴーン・・
音まで洋風とは。
すぐにスピーカーから応答があった。
『はい、どちら様でしょうか』
聞こえてきたのは上品そうな女性の声だった。
「あの俺、鷲尾空って者で…」
『あぁ、お話は伺っております。中へどうぞ』
女性の物腰柔らかな声のあと、門が自動的に開いた。
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