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(こいつだってどうせ…)
そう思うのに、空の目はどこまでも真っ直ぐで、嘘なんかじゃないと鉞にいわしめる。
自虐的になっている自分が、何だか情けなく感じた。
「……もういい。入学式あっから早く体育館行け」
鉞はぶっきらぼうにそれだけ言うと、教室から出て行ってしまった。
「空、大丈夫?」
「あ?何が」
鉞が出て行ったあと、蓮城が心配そうに聞いてみれば、空は何とでもないように肩を竦めた。
普通であれば肝がすわった奴だと感心するかも知れないが、空はアホなので人の感情に対して鈍いだけなのだ。
実際、鉞がなぜ自分に掴みかかってきたのかわかっていなかった。
あれが鉞流の挨拶だったのかも知れない、そう思うことで空は納得し、自分も次は鉞の胸ぐらを掴んで挨拶しなければ、などと命知らずも甚だしいことを考えていた。
「空、体育館、行こ」
「ん、」
「空っちー!」
蓮城と空との間に割りこむようにやってきたのは十夜だった。
何だか邪魔されたようで気に入らない蓮城は、顔をしかめ空の背後に回りこむと、空が離れて行かないように、制服の袖をしっかりと掴んだ。
その様子を見て「あれれー?」と愉しげな声をあげた十夜は空の耳元に顔を寄せると、
「随分となつかれちゃってない?」
「何のことだ」
「蓮城だよ。今まで誰ともつるんだことなかったのに…」
「ふーん」
空は興味なさげに返すと、十夜に向け警戒心剥き出しな視線を送り続ける蓮城を見上げた。
「クマ、友達少ねぇの?」
空の質問に微かに肩を震わせた蓮城は、コクリと頷く。
「じゃあ、俺と同じだな」
「え…?」
蓮城は驚きに目を見開いた。
見た目に惑わされず自分と普通に接してくれる優しさ、ヤクザな担任に言い返す度胸、そんな誰からも慕われる要素を持ち合わせていながらなぜ?と純粋に思った。
答えは単純明解。
アホだからだ。
しかし、ピュアな蓮城はまさか空が壊滅的アホ人間であるなんて思いもしない。
憧れに近い気持ちを抱きつつある蓮城は、無表情でそう言い切った空に、哀愁まで感じていた。
(きっと、何か事情が…)
蓮城は無言で受け止めた。
空の瞳が『何も聞かないでおくれ…』と言っているような気がしたからだ。
大きな勘違いである。
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