6
誰もが固唾をのんで見守る中、空はすっと顔をあげ鉞を見据えると、
「鉞持った金太郎」
言われた通り、もう一度言ってみせた。
「テメェ、誰に向かってナメた口きいてんだ?」
「鉞持った金太郎に」
間髪入れずに返してきた空に、鉞は相手が生徒であることも忘れ、乱暴に胸ぐらを掴みあげた。
ケホッ、と苦しさに空が呻く。
「先に言っておく。俺にもう一度ナメた口ききやがったら、ただじゃおかねぇ」
「俺は―――」
空が何かを言い分かけた時だった。
「何のつもりだ、テメェ」
立ち上がり、鉞の手首をギリリと掴む蓮城。
その力は青アザが出来るんじゃないかというほど強烈だったが、鉞は顔色一つ変えずに蓮城を睨み付けた。
「……空を、離せ」
「あぁ?」
蓮城は、自分がしている大胆な行動に内心驚いていた(当然それは表情にはでていないが)空を助けなくちゃ、そう思った時には体が動いていた。
ミジンコ(空)VS魔王(鉞)から、野獣(蓮城)VS魔王に切り替わった戦いに、最初はビクついていたクラスメイトたちも、格闘試合を生で見ているような感覚に少しずつ興奮し始める。
『どっちが強いんだろ』
『やっぱ暴君じゃね?』
『でもあの担任だってかなり強そうだぜ?』
勝敗の行く末を囁き合う声の中、凶悪な顔つきをした二人はお互い一歩も引かない睨み合いを続けていた。
「テメェ、俺に喧嘩売ってんのか?」
「……別に。でも、空に酷いことするの、許さない」
「空……このチビか。」
チビ、と言われ空はカチンときた。
「……金太郎のくせに」
ボソリと呟いた言葉はしっかり鉞の耳に聞こえていた。
「金太郎じゃねぇ、俺は太郎だ!人が気にしてることを何度も何度も…お前、よっぽど俺に殺られてぇみたいだな!」
「俺は、格好いいと思うぜ」
「は?」
よっぽど空の言葉が意外だったのか、ポカンと口を開く鉞。
鉞は昔から、自分の名前を心底嫌っていた。
アダ名は当然『金太郎』だったし、幼い頃はよくからかわれたりもしてトラウマでもあった。
なぜ両親は自分にこんな名前をつけたのか、憤りを感じその反動から学生時代は暴力に明け暮れる日々。
高圧的な態度も、強い腕っぷしも、もう二度と金太郎などと呼ばせないために身に付けたものだった。
しかし、鉞はわかっていた。
いくら態度で脅そうとも、暴力で捩じ伏せようとも、きっと心内では金太郎、と嘲笑われているんだろうと。
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