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鴉間家御抱えの運転手に和光まで送ってもらった二人は、掲示板に張り出されたクラス表の前にいた。
「空っち、こっちだってば!」
「…告白場所は放課後の屋上が鉄板」
未だに妄想にふける空を引っ張りながらクラス表を確認する十夜。
周りの新入生は、麗しい容貌の十夜に色めき立ちそして、そんな十夜と親しげに手を繋ぐ不釣り合いな平凡顔に不躾な視線を向けた。
「あ、空っち同じクラスだよ!一組だって」
喜ぶ十夜に対し、さも興味なさげに「ふーん」と返し耳をほじくる空。
妄想には飽きたようだ。
チラチラと好奇な視線を受けながら二人揃って一組へと向かうと、教室内では既に仲の良い者同士が集まり談笑をしていた。
この和光高等学校は中等部が存在し、持ち上がり組が殆どなため顔馴染みも多い。
因みに十夜も中等部からの持ち上がり組だ。
そんな中、ポツンとやって来た所謂外部生の空と、学年ではアイドル並みにもてはやされている十夜とのツーショットに、俄にザワめくクラスメイト達。
『あいつ誰?』
『なんで十夜様と…』
『平凡顔のせいで十夜様が汚れる!』
などの囁く声が飛び交い、明らかに好意的ではない殺気のこもった視線が空へ集中した。
しかしながら歪んだ嫉妬を向けてくるのは恋する乙女、ではない。
ここは男子校。
そう、どこもかしこも男だらけ。
十夜を見て乙女のごとく頬を染めているのも、空に今にも噛み付かんばかりに睨んでいるのも、男なのだ。
閉鎖的な空間ではないにしろ、生徒たちの中には同性を恋愛対象とする者も多い。
割合に示すと7:2:1、バイ、ホモ、ノンケ、となる。
ゆえに近隣の学校では“ホモ高”と噂されていたりいなかったり。
「嘘だろ…」
教室を見渡して空は愕然とした。
短いスカートの女子高生の姿が見当たらない。
空はガクガクと震える手で十夜の肩を掴んだ。
その瞬間「十夜様に触れやがって死ね!」とどこからか聞こえたが今の空の耳には届かない。
「おい、十夜。女子はどこだ。どっかに隠れてんのか?」
「空っち、ここ男子校だよ?」
「……」
嘘だろ、と空は心の中でもう一度呟く。
目の前が真っ暗になった、というのは言い過ぎだがテンションががた落ちしたのは言うまでもない。
(じ、じゃあ…夕日に向かって追い掛けっことか、屋上に呼び出されて告白とか…俺の夢が叶わねぇじゃねぇかぁあああ)
空は無言で十夜の胸ぐらを掴むと、グラグラと揺すった。
「ちょ、空っち苦しいってば!」
「俺の青春をどうしてくれる!」
もはや八つ当たりに他ならない。
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