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「誰だ」
「それは言えない」
「言え」
「言えないんだもん」
「もんとか言うな、キモい」
「空、父親に向かってキモいとか言っちゃ駄目だろう」
「こういう時だけ父親ぶるんじゃねぇよ」

言え、言わないの押し問答の間に授業終了のベルが鳴り響く。
教室からはワッと小学生たちが廊下へと出て来た。

「あ、待てコラッ!」

騒がしさに空が一瞬目を離した隙に、五郎はクラウチングスタートから全力疾走で廊下を駆け抜けて行った。


逃げ足の速さだけは天下一品だな、と空は逃げられたことを余所に感慨深く思ったのだった。




取り敢えず父親が無事に生きていたことに安堵して空が三貴のいる教室へと戻ると、中は異様な熱気に包まれていた。


「あの、お仕事は何を?」
「背がお高いんですねぇ、主人とは大違い」
「おいくつなんですかぁ?とても小学生のお子さんがいるようには見えませんね。羨ましいですわ〜」

遊二が奥様連中に囲まれていた。

空とは違い、ある程度常識のある遊二は嫌そうに眉を歪めながらも、言葉少なめながらちゃんと受け答えをしているようだったが、教室に戻ってきた空を見つけると目で『どうにかしろ!』と助けを求めてきた。

空はそれに口端をあげて奇妙に笑うと遊二に向け親指を立てる。
そして


「もうパパなんて知らない!」

甲高い声で泣き叫ぶように言った空に、ギョッとする遊二。
一瞬にして緊迫した空気が流れる。

遊二に言い寄ってきていた人妻軍団もさすがにヤバいと感じたのか身を引いていく。

(パパって…もしかして俺か?)

親の仇のように睨んでくる空に、遊二はこのあと自分がとるべき行動に困惑の色を浮かべた。
周りの野次馬たちはみな二人の動向を見守っている。

「パパの浮気者!もう離婚よ、リ・コ・ン!RI・KO・N!」

黙りこむ遊二に空が離婚を連呼し追い討ちをかける。

プンプン、と効果音まで発して傍目からは本気で怒っているように見えるだろう空に、遊二は苛つきを覚えた。


(一体何がしてぇんだよ…)

ふざけんな、と怒鳴ってやりたい。
しかし、大人だけならまだしも、子供たちからの『あの人何か悪いことしたの?』みたいな視線はさすがにキツイと思った遊二は不本意ながら空の芝居に付き合うことにしたのだった。

「ま、待ってくれ…」
「何よ!」
「ゆ、許してくれ」
「じゃあ、今すぐ“愛してる”って大声で言ってみなさいよ!じゃなきゃ離婚よ!」

なんだこの羞恥プレイは。



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あきゅろす。
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