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三貴が頭を抱える中、牧瀬博(27)職業、小学校教諭は雷に撃たれたような衝撃を感じていた。

これこそが世でいう運命の出逢いか!そう確信して間もなく、彼の一目惚れは失恋のドン底へと沈む。

何しろ、その相手は見たところ既婚者。

当たり前か…授業参観にやってきているのだから必然的に自分の教え子の親ということになる。

運よく未亡人であればと思ったが、隣に寄り添う美丈夫を見れば人妻であることは明白。

大きな溜め息をついて黒板に向かい中断していた授業を再開させた。


「えー、この式を使えば答えはこうなる。じゃあ、次の問題を……鴉間くん」

「え、あ、はいっ」

女装している空に気をとられていた三貴は、突然の指名にあたふたと問題に目を向けた。


(どうしよう…わからない)

いつもならば解ける問題も、大勢の視線を一身に受け頭が回らない三貴は更に混乱する。

沈黙がやけに長く感じ、額からツ、と冷や汗が流れた。

わかりません、そう恥を覚悟で告げようとした時だった。


「先生!わかりません」

三貴よりもいち早くそう高らかに言ったのは、紛れもない空であった。

「「………」」

また妙な沈黙が流れる。

空の隣にいた遊二は他人のフリを決め込むことにしたようで、空とは距離をとり、教室の隅で壁に体を預けていた。
ダルそうに欠伸までこぼしている。


「えっと…」

三貴の担任、牧瀬はどうしようか困っていた。

純真無垢な眼差しを向けられ嬉しささえ感じる一方で、今は他の親御さん達も見ている授業参観。
しかし、口出しはしないでください、なんて一目惚れの相手を無下にもできない。


「あの、お母さん、」

牧瀬が優しげな笑みでそう呼び掛ける。

だが当の空はすっかりお母さん役ということを忘れ、キョトンとした顔で辺りを見渡した。
一体どこのお母さんか、と。

牧瀬は空の行動がよくわからなかったが、咳払いをして視線を向けさせると

「では、一緒に問題を解いていきましょうか」

優しく諭すことでこの場をおさめることにした牧瀬だった。
空は牧瀬の言葉に目を輝かせコクコクと頷く。

なんだか空に助けられたような気もしないではないが、余計に恥をかいた感じが否めない三貴はいそいそと席に着いた。


「クスッ、鴉間くんのママって面白いね」

隣の女の子がニコニコしながら言った。
三貴は返答を図りかねて曖昧な笑みを返す。

(面白いというか……)

そう、ただアホなだけだ。



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あきゅろす。
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