[携帯モード] [URL送信]
10



学校では“黒豹”の名で恐れられているド不良遊二も空の前ではたじだじ。
誰がどう見ても立派なヘタレだろう。

やっと遊二から了承の言葉を聞けた空は「ありがとな」と極上スマイルを遊二に送りながら小さくガッツポーズをしたのだった。


そのあとの空の行動は早かった。

遊二をある一室に連れ込むと、いつの間に用意したのかスーツ一式を渋る遊二に着させ、小さな黒い塊を鼻下に貼り付けた。

すかさず遊二が突っ込む。

「何だこれは」

「チョビ髭」

「ふざけんな」

そう言って鼻下に張り付くチョビ髭を取ろうとした遊二の手を空が掴む。

「そのままじゃ父親っぽく見えねぇじゃん」

確かに素の遊二のままではいくら大人っぽいと言っても小六の子供がいるようには見えないだろう。
しかしそこまでしてリアルを追及する必要性があるのか?と遊二は疑問に思った。

首を捻りながらチョビ髭をつけた自分を鏡で見てみる。

「……」

激しい違和感。
顎髭ならまだしもチョビ髭はかなりイタイ。

やはりこれはない、ともう一度空に抗議しようと振り返った遊二の目に飛び込んできたのは、ヒラヒラと揺れるピンク色。

下からずいっと上に視線をあげていくと――



「お前、クソ使用人か?」

「クソは余計だがそうだ」

この喋り方は確かにそうだ。

空は淡いピンクのワンピースに身を包み、上品な色合いのスカーフを首元に巻いていたが、遊二が驚いたのはその容姿だった。

うっすらと色付く目元に唇。

濃くもないメイクにも関わらず、そこには平凡顔の面影すらない。
そう、空はもの凄く化粧栄えする顔だったのだ。
緩いウェーブのかかったカツラを被る空は、どこからどう見てもセレブなお嬢様。

に引き換え、自分はなんだと遊二は鏡に映る自分を改めて見つめた。

カトちゃ――
でかかって遊二は瞳を固く閉じた。
耐え難い屈辱感に手がプルプルと震える。

ペリッとチョビ髭を外す。

「あ!取るなよなぁ」

もおと口を尖らす空。

遊二は何事もなかったかのように目を開くと素のままの自分の顔を目に焼き付けた。



.

[*←][→#]

10/19ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!