6
「ところで、三貴」
急に空にふられた三貴は肩をビクリと揺らした。
というのも、空に気付かれないようそっと家を出ようとしていたところに声をかけられたからだ。
三貴は少なからず、空に対し苦手意識を持っていた。
とても好印象とは言えない初対面の状況を踏まえれば当たり前である。
気の弱い三貴は「はい…なんですか?」と振り返る。
「これから学校か?」
「はい…」
「そうか。行ってらっしゃい」
「……」
空の何気ない言葉に、目を見開く。
(行ってらっしゃいなんて言われたの…初めてだ)
三貴の心に暖かいものが巡る。
何だか恥ずかしくなり、自然と緩む口許を見られたくなくて俯く三貴に空は首を傾げた。
「どうした?具合でも悪いのか?」
「え、ちがっ…………行って、きます…」
辿々しく答えた三貴に、空は小さな頭を一撫ですると笑顔で頷いた。
「トイレで大をする場合は“ここに隠れよーっと”と言ってかくれんぼしてるフリをしろよー」
背を向け玄関へと向かう三貴を、そう言いながら見送る空。
一度、個室に入ったときにドアを叩かれまくってからかわれた事のある三貴は、空の助言に機会があれば実行してみようと固く拳を握り締めたのだった。
その時、玄関を出て行こうとしていた三貴の鞄から紙が一枚ヒラリと落ちた。
「三貴、何か落ちたぞ」
「え?」
それを拾いあげた空は紙に書かれた文字に目を走らせる。
どうやら学校で配られたプリントのようで。一番上には『保護者様各位』と記されていた。
「ん?授業参観…?おい、これって今日だよな?」
「か、返してっ」
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