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十夜の部屋を出たあと空が向かったのは、言わずと知れた狂犬、遊二の部屋。

ガチャ・・
「おい遊二」

デリカシーなんて言葉と無縁な空には他人の部屋に入る前にノックをしなければならないという常識などはない。

遊二の部屋は十夜の部屋と比べるとすっきりと片付いており、必要最低限の物しか置かれていない生活感を感じさせない空間だった。
空は辺りをグルリと見渡したあと、ベッドの上で大きな体を広げ豪快に眠る遊二に近付いた。

遊二は習慣なのか上半身裸で、もしこれを乙女な女子が目の当たりにしていたら「キャッ」なんて声をあげ頬を染めていたことだろう。そのくらい、このワイルド系美形の遊二の肢体は艶かしいものがあった。

「遊二、起きろ」

「………あ?」

空の声に薄目を開けた遊二は、安眠を邪魔されたことに苛々した様子で眉間に皺をこれでもかというくらい寄せ空を睨みあげた。
普通の感覚の持ち主であれば半泣きで逃げてしまうくらいに迫力があるが、空はそれを一瞥すると遊二に背を向ける。

「メシの時間だ、起きろ」

「俺がいつ起きようが、テメェには関係ねーだろ」

部屋を出て行こうとしていた空の足が止まる。

(さぁ、どうでる)

遊二はいい機会だとばかりに空を試すことにした。
空を怒らせ突っ掛かってきたところで力量を見定めるという目論見だ。

「……」

振り返り無表情でじっとこちらを見詰める空に、遊二は口角をあげ掛かってこいとばかりに空を挑発している。

(俺の読みが正しければ、こいつはかなりのやり手。久しぶりに腕が鳴るぜ…)

遊二は腕っぷしにはかなりの自信を持っていた。
というのも、ここいら一帯の不良の頂点に君臨している遊二に、敵う者などいないからだ。

空はフゥと息を吐くと、再度遊二の元まで足を進めた。

(やっとその気になったか…)

長い沈黙を破り行動にでた空に、遊二は警戒を強めた。


「遊二」

空は遊二の目の前までやってくると、柔らかな笑みを浮かべた。

空の不可解な笑顔に一瞬目を奪われる遊二。

(なんだこいつ。一体何考えてやがる…俺を油断させる気か?)

「大丈夫」

改めて気を引き締めた遊二に、空はまたも不可解な行動にでる。
優しげな声色で大丈夫、とまるで遊二を宥めるかのように頭を撫で始めたのだ。

狂犬遊二がチワワのように撫でられているなんて、一体誰が想像しただろうか。



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