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珍しく素直に従う兄弟たちを見て苛立ちを覚えながらも、九音はそれ以上空を追及することはしなかった。

自分がまさか言い負かされるなんて思ってもみなかった九音は、空に対して怒りとは別の感情が芽生えるのだった。


(……アホを装っていて実はこいつ、大物なのかも知れない。もしかして父さんの策略か?そうか、俺は次期当主としての器を試されているんだな!?)


九音は頭がいいがゆえに無駄に勘繰りすぎていた。

空は正真正銘、ただアホなだけである。


九音はカレーを口に運びながら観察するように向かい端に座る空をじっと見詰めた。

犬のようにカレーを掻き込んでいる。

実に汚い食べ方に育ちの良い九音は思わずギョッとする。


「……」

ふ、と視線に気付いた空は手を止めて九音に顔を向けた。
口の周りにカレーがこびりついている。


(汚い!)

目が合った瞬間、気付かれたことに少しだけ焦る九音だったが金縛りに合ったかのように視線が逸らせなかった。

そんな九音に、空は感情の読めない瞳で静かに口を開いた。

「おかわりならある。安心しろ」

「いや、全く違うんだが…」

まるで子供に言い聞かせるような言い方。

九音はすぐに否定の言葉を口にしたが、当の本人はまた鬼のようにカレーを食べ始めてしまったため全く聞いていない。

そんな空に九音は疲れたように息を吐くと、シェフ並みに美味しいカレーを口に運んだのだった。


その隣で、九音のらしくない姿を見ていた次男の遊二は口角をあげニヤリと笑う。
いつもいつも長男というだけで偉そうな九音に言い負かされてばかりいただけに、空にタジタジな兄を見てだまぁみろと愉快な気分に浸っていたのだった。


(やはりアイツはただの使用人じゃねぇ。俺にも全くビビんねぇし、喧嘩もさぞかし強いんだろう…一度手合わせしたいもんだぜ)


無意識に遊二の闘争心に火をつけてしまった空の身は果たしていつまで無事でいられるのだろうか――。




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