7
「んだよ、ケチ」
「え…」
なかなかソフトクリームをくれようとしない少年に、痺れを切らした空は不貞腐れたように言い捨てた。
お前は俺様か。
「あの、良ければ…あげます」
空の反応に、やっと少年は目の前の俺様ジャイアンがソフトクリームを欲しがっていたことに気付くと、無言の攻防の間に少し溶けてしまったソフトクリームを、おずおずと差し出した。
空は数秒、少年に探るような視線を向ける。
「……」
(な、なんだろう…)
じっと見詰められ身を強張らせる幼い少年。
「食い物で釣れると思うなよ。貰っとく、あんがと」
(え、簡単に釣られた…)
空は嬉しそうにソフトクリームを受け取った。
一番食いしん坊なのはお前だと誰か突っ込んでくれ。
「あのー…それで貴方は…?」
「あぁ、俺は鷲尾空。ここの専属使用人だ。オマエは?」
使用人としての態度に疑問は残るが不審人物の正体が判明したことで少年は少しだけ警戒を緩めた。
「使用人さんでしたか…僕は鴉間三貴です。よろしくお願いします」
ペコリと頭をさげ挨拶をしてきた三貴に、空は素早い動きでジャンピング土下座を決めてみせた。
「こちらこそ宜しくお願いします」
「あ、え、はい…」
なぜだか挨拶はきっちりとする空に困惑する鴉間家の四男、三貴だった。
「よし、面倒くせぇけど作るか」
空は三貴から強奪したソフトクリームをぺろりと平らげると、台所に立ち料理に取り掛かった。
その後ろ姿をポケーッと見ていた三貴だったが、どうしても空が気になりソッと背後に近づくと空の手元に目を遣る。
「何、作ってるんですか?」
「カレーに決まってんだろ。おい三貴、オマエも手伝え」
「え………わかりました」
まだ人参しか切っていない状態でカレーを作っているとわかる人間は一体何人いるだろうか。
空(使用人)に手伝えと命令された気の弱い三貴は断ることも出来ずに小六にして初めて包丁を握ることになってしまった。
空は三貴に玉ねぎを渡すと、ただ一言「思いきり切れ」とだけ言って自分の作業に戻ってしまう。
(思いきり切るって……どうやるんだろ…)
まな板にポツンと置かれた玉ねぎを見詰めたまま固まる三貴。
空に切り方を聞こうにも、じゃがいもを剥くのに夢中な空からは『喋りかけるなオーラ』がでていて聞けない。
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