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「あんな奴を使用人に雇うとは、父さんは一体何を考えているんだ」
九音のぼやきに「さぁ」と肩を竦める十夜だった。
ところ変わってリビングを出た空はというと、キッチンにやって来ていた。
空は九音が言った『ここから出て行け』という言葉を『早くキッチン行って飯作ってこい』に解釈していたのだった。
「食いしん坊メガネめ」
九音は変なアダ名をつけられていた。
父子家庭で育った空は、生きるすべとして家事全般はそこらの主婦よりも完璧にこなすことが出来、料理に関してはプロ級の腕前を持っている。
因みに今日の献立は先程の呟き通りカレーにするようだ。
「……ん?」
空が冷蔵庫の中身を確認しようと近付いたその時、その横でうずくまる小さな人影を見つけた。
「フフ、おいしい〜」
よく見てみると、ソフトクリームを幸せそうに食べている少年がいた。
少年はまだ空の存在に気付いておらず目の前のソフトクリームに夢中だ。
空もその美味しそうなソフトクリームに目が釘付けになっていた。
知らぬ間に足が進み少年の前に屈みこんだ空は
「俺にも食わせろ」
年下に対して何て横暴な言い方だろうか。
少年は突然現れた見知らぬ男に目を丸くした。
「あ、えっと…誰、ですか…?」
少年は怯えた様子で空に恐る恐る訊いた。
その姿は小動物を思わせるような可愛らしさで、まだあどけない顔は美少女に見間違うほどに愛らしい。
しかし空にとっては興味の対象ではない。
今興味津々なのは、キラキラと目映く輝く純白のソフトクリームただ一つ。
その目は獲物を狙う獰猛な野生動物のよう。
ますます怯える少年はソフトクリームのことなどすっかり頭から抜けてしまっていた。
ただ、見知らぬ怪しい男に危害を加えられやしないかという不安で頭はいっぱい。
助けを呼ぼうにも、恐怖で喉がカラカラと渇き声がでない。
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