5
のほほんとした午後のティータイムは夕方まで続き、グッタリと干からびた魚のようにソファーに寝そべっていた十夜と空は、第三者の帰宅によって漸く現実へと引き戻されることになる。
「…何をしてるんだ、十夜」
呆れたように二人を見下ろしているのは、鴉間家の次期当主である長男の九音。ノンフレの眼鏡の奥にある涼やかな瞳が印象的な男である。
「あ、九音おかえり〜」
九音に声をかけられハッといち早く現実に戻ってきた十夜は慌てて返事を返した。
「あぁ。……隣にいるのは十夜の友人か?俺の許可なく連れ込むなとあれほど言っただろう」
「ううん、空っちはここの使用人だよ」
「……………ん?」
九音は一瞬耳を疑った。
今使用人と言ったか?いやいや絶対聞き間違いに違いない、とかぶりを振る。
「友人では――」
「違うってば。使用人だよ、ここの」
間髪入れず返される。
九音は眼鏡のブリッジを押し上げマジマジと空を凝視した。
「何見てんだメガネ」
「…………メガネ?」
ガンをつけられていると勘違いした空は眉間に皺を寄せて苦々しく呟く。
天下の生徒会長様である九音を『メガネ』と一蹴した人物は空が初めてであろう。
「貴様っ…!」
九音はとても頭がよく、周りからの信頼も厚いが一つだけ難点があった。
プライドがエベレスト級に高いのだ。
常に自分が一番であると自負している九音が、空にメガネ呼ばわりされたことでプライドが簡単に傷ついたことは言うまでもない。
「今すぐにここを出て行け!」
眉を吊り上げ威厳ある声で言い放った九音に、空はソファーから立ち上がるとスタスタとリビングを出て行った。
去り際に「今日はカレーにすんぞ」と訳のわからないことを呟いていたのは気のせいだろうか…。
とにかく、突っかかってくると予想していた九音は、意外な空の行動に拍子抜けした。
(何なんだあいつは…)
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