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しかしそんなこと知るよしもない空はヘラヘラと笑う十夜にますます怒りが沸いた。
「喧嘩売ってんのかテメェ」
「ううん、全然。ねぇ、空っちって一体何者?何でここで寝てたの?」
「俺はここの使用人だ」
「…使用人なのに寝てたの?」
「使用人だって寝る時は寝んだろーが」
「……」
あまりに堂々とそう言い切った空に、十夜はそれ以上突っ込むことをやめた。
このまま押し倒して無理矢理ヤッてしまおうかと善からぬことを思っていた鬼畜十夜もさすがに萎えてしまったようで、疲れたように溜息を吐き出すとソファーに腰をおろした。
その様子を見ていた空は立ち上がって十夜の目の前に仁王立ちで立つと
「何か飲むか」
「え、じゃあ…紅茶を」
「ん」
いきなり使用人らしくなった空に戸惑う十夜だった。
暫くするとキッチンから盆にティーセットを乗せた空がやってきて、十夜の目の前にそれを置くと目だけで『さぁ、飲めや』と促してきた。
十夜は「あ、ありがと…」と困惑気味に礼を伝えると、紅茶に口をつける。
それを満足そうに見届けた空は、これで仕事は終わったとばかりに十夜の隣にドカリと座った。
実に偉そうでとても使用人とは思えないが、十夜は空という人物はこういう奴なんだと思うことにし、咎めることはしなかった。
「紅茶、淹れるの上手だねぇ。とってもおいしい」
「そうか?そりゃ良かった。前に喫茶店でバイトしてたことがあってよ、そこのマスターに教えてもらったんだ」
「へぇー」
何とも和やかな時間が流れていく。
窓から差し込む暖かな木漏れ日、外から聞こえる小鳥の囀り。
(不思議…一緒にいてこんな落ち着く奴初めてだ…)
ただ単に存在感が薄いだけなのだが、隣でダラリとふんぞり返る空に視線を向けると『こいつ…ただ者ではないな』と一目置いてしまった十夜だった。
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