3
常に眉間に皺を寄せしかめっ面をしている遊二の驚いた表情はとても貴重なのだが、残念ながらそれを目撃できる人物は今誰もいない。
「おいテメェ、起きろ」
短気かつ暴力的な遊二は明らかに怪しげな不審者空を足で転がした。
ゴロリと床に落ちる空の体。同時にゴツンと鈍い音がした。
床に思いっきり顔面をぶつけた衝撃で目覚めるかに思われたが、散々歩き回り久しぶりの睡眠を貪る空はピクリとも動かない。
(死んでんのか…?)
そう遊二が思うのも当然だろう。
うつぶせの状態のまま動かない空を不審そうに足の先で慎重につついて反応を確かめてみる遊二。
「う…」
苦し気だが微かに反応があったことに安堵した遊二はこれをどうしたもんかと眉をひそめた。
「……」
基本的に考えることが嫌いで面倒臭がりの遊二が出した答えは『THE・放置』であった。
死体のように転がる空に背を向け颯爽とリビングから出て行った遊二。
さすが不良。
遊二がリビングを出て行ってから数分後。
「ただいま〜。て誰もいないか……ん?」
軽やかな足取りでやってきたのは三男十夜。
垂れ目に目尻の黒子が印象的な軟派男である。
リビングの床にうつ伏せで寝転がる男、空に気付いた十夜は「あれあれ〜?」と言いながら空の元にしゃがみこんだ。
「もしもーし。君大丈夫〜?」
空の耳元に向かって声をかけてみる十夜。
遊二と比べるとかなりまともな対応だ。
すると、頭を強打しても起きる様子のなかった空がのっそりと起き上がり薄目で十夜を見上げた。
「ん…アンタ誰…」
不審者は明らかに空のほうなのだが、寝惚け眼の空は自分のおかれた状況をすっかり忘れている。
「俺、十夜。君は?」
「鷲尾空…」
段々と意識がはっきりしてきた空は鈍く痛む頭を不思議に思いながらもつい寝てしまったことを思い出す。
すっかり寛ぎすぎてしまったことを反省して立ち上がろうとした時だった。
「なんだよ」
間近でじっと見つめてくる強烈な視線に目を細める。
「んー、空っちって平凡顔だけど…何だか小柄だし抱き心地よさそうだねぇ」
舐めるような視線で空を見詰めたあと、十夜は熱のこもった瞳で空の頬を撫でた。
十夜の行動は全く訳がわからなかったが小柄イコール、チビと解釈した空は馬鹿にされたのだと思い十夜を睨んだ。
「誰が蟻んこみてぇに小せーから踏み潰しちゃいそうだって?ふざけんなよ」
「そこまでは言ってないけど〜」
実は、十夜は女も男もイケるバイセクシャルなのだ。
空はまんまと十夜のエロセンサー(許容範囲広し)に引っ掛かってしまったのだった。
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