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警戒心剥き出しの空に、男はなるべく優しい口調で説明を続けた。
言葉に警戒心が含まれていても、だらしなくソファーに横たわる空に全く緊張感は感じられないが。
せめてちゃんと座れ。
「あ、そう言えば親父は!?無事なんだろうな?」
「あぁ、大丈夫だよ。三日前に既にここに来ているよ」
「そっか…良かった」
あんな駄目親父を本気で心配していた空はほっと息をついた。
「情報伝達に手違いがあってね。本来なら君を迎えに人を向かわせるはずだったんだが…しかし、君の家からそう遠くないこの場所まで三日経ってもやって来ないから心配していたのだよ?」
「金ねぇから歩いてきたんだ、これ見ながら」
そう言って空はテーブルの上にあの適当に書かれた地図を置いた。
男はそれを見て目を剥く。
(よくこれだけでたどり着けたものだ…この少年、もしかして野生児か?)
男は、まだかまだかとカツ丼を待つ空を暫く訝しげに見詰めていたがハッとしたように自己紹介をし始めた。
「おっと、自己紹介が遅れてしまったね。僕は鴉間家当主、鴉間一也(カラスマカズヤ)だ。宜しく」
「鷲尾空です。」
寝転んでいた空はシュパッと起き上がりソファーの上で正座をすると、一也に向かって行儀良く頭をさげた。
あれだけ偉そうな態度をとっていたくせにかなり今更だと思う。
「それで…僕の申し出を受けてもらえるかな?と言っても、君はもう一億で買われた身だから、働らかざる負えないんだけどね。」
初めて一也が見せた悪者染みた笑顔に、空は目を細めた。
(さすが親玉だ…)
有無を言わせない笑顔の圧力に、空は一也という人物を周に続きブラックリストに加えることにした。
「鼻から断るつもりはねぇ。俺は親父が無事ならそれでいいんだ。使用人でも何でもやってやる」
既に腹を括っている空の言葉に、一也は一層笑みを深くした。
(さぁ、うちの暴れ馬たちをどう手懐けてくれるのか。楽しみだ…)
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