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「空(ソラ)。借金のカタにお前を売った、すまねぇ」
「……ぶっ殺されてーの?」
六畳一間、築30年のボロアパートの一室でちゃぶ台を挟み真剣な表情で言葉をかわす父と息子。
これが爽やかに晴れた休日の、親子の会話の内容とは俄に信じがたい。
が、しかし息子のこめかみに浮かぶ青筋を見れば真実であると認めざる負えないだろう。
ゴッツーン・・・
「痛いぞ、空。親を殴っちゃいかんだろ」
無言で父親の頭に拳骨を落とした息子、鷲尾 空(ワシオソラ)。
それに対して眉をしかめることもなく無表情で冷静に注意する父、鷲尾 五郎(ワシオゴロウ)
何を隠そう、五郎は近所では知る人ぞ知る駄目親父である。
具体的に駄目な点をあげるとすれば、それは運のなさだろう。
良く言えば人がいい故にどんな嘘でも信じてしまうお人好しなのだが、悪質な詐欺に騙されては高額な請求書が毎月送られてくるといった、哀れな男なのだ。
その大変可哀想な父親のせいで、息子である空はこの世に生を受けてからずっと借金暮らしを強いられてきた。
本当に可哀想なのはこの空かも知れない。
ヤミ金の取り立てを子守唄に育ってきたと言っても過言ではない。
「俺にはテメェを殴る権利がある。息子を売るとはどういう了見だクソ親父」
「とある人に、言われたんだ。お前を引き渡せば借金を全てチャラにしてやるって」
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