コイビト
蕩けそうなほどの甘い微笑に思わず見惚れていたが、唇に残る微かな感触が甦り僕は口を手で覆った。
まるで沸騰したヤカンのように顔に熱が集まる。
火でも吹き出しそうだ。
「っ何、今の!?」
「何って、キス」
気が動転してしまい声を荒げる僕に対して、敦はあっけらかんと返す。
キス、という単語に顔がカッと熱くなる。
「だ、だから何でっ!」
なんでそんなに平然としていられるんだ?
敦も男で、僕も男。悪ふざけだとしても、たちが悪すぎる。
いくら性的なことに疎い僕だからって、外人でもあるまいし友達同士でキスはしないことくらいわかる。
しかもここだけの話、僕のファーストキスだったのに…。
「もしかして、初めて?」
軽く落ち込む僕に、敦は口角をあげ意地悪そうな笑みを向けてきた。
思わずピクリと肩が跳ねてしまう。
肯定するような僕の反応に、敦はクスクスと笑いを漏らした。
「は、初めてで悪かったねっ。どーせ彼女居ない歴17年ですよーだっ!」
「不貞んなよ。笑って悪かったって」
腕を組んで剥れる僕に、敦は悪びれた様子もなく軽い調子で謝ってきた。
それが余計に馬鹿にされたような気がして――僕は皮肉気味に言い返した。
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