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手紙








ある日の数学の時間。


お爺ちゃん先生が書き連ねる不可解な数式をボーッと見つめながら、僕は、頭を悩ますある人物のことについて考えていた。



そのある人物は今、隣の席で真剣な眼差しで授業に耳を傾けている。


僕はこっそりと伊集院の横顔を盗み見た。

そして息をつく。



このままじゃいけないんだ。いつかは答えをださなければいけない。

ズルズル引き延ばすのは、本気で好きだと言ってくれた伊集院に失礼だってわかってる。


だけどそう出来ないのは、僕が臆病だから。

一人になるのが怖いから。


身勝手な自分に、自己嫌悪する。



「―じゃあ、この問題を…東雲。答えてみろ」

「へ?あ、はい!」


唐突な先生からの指名に、慌てて立ち上がる。


考え事に没頭していたせいで全然聞いてなかった!

て、もし聞いていたとしても答えられたかは微妙だけど。
何てったって僕、数学苦手だし…。




ここは正直に恥を覚悟でわかりませんと言うか、と考えていたら、隣から小さな声で「9」と聞こえた。


「えっと…9…です」

「うん。宜しい」



よかった…。



こっそり答えを教えてくれた伊集院に向かって口パクでありがとうと伝えると、微笑が返ってきた。



伊集院は喋り方とかヘンテコだけど、頭がもの凄くいいのだ。テストでは毎回トップだし。


頭脳明晰、容姿端麗、何もかも完璧な伊集院…なのに、なんで僕なんか。
そう思わずにはいられない。




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