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「けどさぁ、僕が着ても気色悪いだけだと思うんだけど。太郎くんが面食いなら、尚更やめたほうがいいんじゃない?」
世にも恐ろしい姿になるに決まってる。
「要は試しだ。まずは着てみたまえ!」
ずい、っとワンピースを差し出され、僕は仕方なく渋々それを受け取った。
伊集院が、言いだしたら聞かない奴だってわかっているから。
それに、着た姿を見ればきっとこの作戦を中止にしてくれるだろう。
さすがに女装姿で廊下を歩くのは誰かの目に触れるかも知れないし、さすがに恥ずかしい。
中止になればどうせ見るのは伊集院だけだし、そう思うといくらか気が楽だ。
早速ブレザーを脱ぎYシャツの釦を外しにかかると、
「し、東雲くん!君は恥じらいというものがないのか!!」
恥じらい?
顔を真っ赤にし指をさしてくる伊集院に首を傾げる。
じゃあどこで着替えろっていうんだ。
大体、男同士なんだしそんなこと…
「あ……」
つい衝撃的すぎて頭から抜けていたけども、僕こないだ伊集院に告白されたんだっけ。
告白の翌日、学校で伊集院と顔を合わすといつも通りだったからあれは僕の夢かぁ、なんて現実逃避しながら今日までやり過ごしてきたけど。
この反応を見る限り、やっぱり伊集院はそういう対象として僕を好きなのか。
“あれこれ”したいとも言っていたし…。
かと言って、僕はどうすればいいんだろう。
返事はいつでもいいって伊集院は言っていたけど。
伊集院のことは好きか嫌いかで言えば好きだけど、伊集院の求める好きと、僕の好きでは違う。
だから告白に対しての返事は『NO』。
だけど……言えない。
伊集院を傷つけたくないし、もしその返事をしてしまえば確実にこの関係性は崩れる。
だから、言えない。
僕のエゴだってわかってはいても。
「……わかった。じゃあさ、目を瞑るか後ろ向いててくれる?」
そう言うと無言で背を向けた伊集院を確認し、僕は着替えを再開させた。
体にフィットしていて何だか着づらいなこれ。
女の子の服ってみんなこんな感じなのか?
というか、伊集院は一体どこでこれを…?
謎だ。
「伊集院、もういいよ。鏡がないからどんな感じになってるかわからないけど…どうせキモいでしょ」
「………」
振り向いた伊集院は、僕の姿を無表情のままじーっと凝視したあと、深く頷いた。
ダメならダメではっきりと言ってほしいんだけどな。
こんな姿でいるだけでも恥ずかしいのに…
僕は伊集院の目を直視できなくて俯いた。
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