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「どうしよう…」


伊集院宅にやってきたものの、あのキスがどうしても心に引っ掛かり中々門を跨げずにいた。

このまま突っ立ってたらただの不審者だ。早くしないと。



そうだ。

先生から頼まれたという名目で来たのだから、プリントを水木さんに渡してさっさと帰ればいいんだ。

そうすれば、伊集院と顔を合わすこともない。
けど…

風邪だという伊集院の様子も気になる。



「東雲様?」


門前を彷徨いていたら、いつの間にか近くにいた水木さんに声をかけられた。


「あ、こんにちは」

「こんにちは。坊っちゃまのお見舞いに来て下さったのですね。さぁ、どうぞ中へお入り下さい」


「あ、いえ、僕はっ」



ニコニコと優しげな笑顔を前に『プリント渡しに来ただけですからサヨナラ!』とも言えず…



僕は結局、流れで伊集院の家にあがりこんでしまった。


僕には伊集院と会う他に、道はないらしい。




重い足取りで廊下を進み、伊集院の部屋の前で止まる。

――コンコン
控え目にドアをノックすると、奥から少し掠れた彼の声がした。



「お邪魔、します…」

「…東雲くん?」


上体を起こし驚いたように目を開く伊集院。

よもや僕が来るとは思ってもみなかったんだろう…。


「先生からプリント頼まれて、それで……具合は大丈夫?」

「あぁ、もう大丈夫さ。明日は学校に行くつもりだよ」


言葉とは裏腹に、彼の様子は見るからに辛そうだった。






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