2
「どうしよう…」
伊集院宅にやってきたものの、あのキスがどうしても心に引っ掛かり中々門を跨げずにいた。
このまま突っ立ってたらただの不審者だ。早くしないと。
そうだ。
先生から頼まれたという名目で来たのだから、プリントを水木さんに渡してさっさと帰ればいいんだ。
そうすれば、伊集院と顔を合わすこともない。
けど…
風邪だという伊集院の様子も気になる。
「東雲様?」
門前を彷徨いていたら、いつの間にか近くにいた水木さんに声をかけられた。
「あ、こんにちは」
「こんにちは。坊っちゃまのお見舞いに来て下さったのですね。さぁ、どうぞ中へお入り下さい」
「あ、いえ、僕はっ」
ニコニコと優しげな笑顔を前に『プリント渡しに来ただけですからサヨナラ!』とも言えず…
僕は結局、流れで伊集院の家にあがりこんでしまった。
僕には伊集院と会う他に、道はないらしい。
重い足取りで廊下を進み、伊集院の部屋の前で止まる。
――コンコン
控え目にドアをノックすると、奥から少し掠れた彼の声がした。
「お邪魔、します…」
「…東雲くん?」
上体を起こし驚いたように目を開く伊集院。
よもや僕が来るとは思ってもみなかったんだろう…。
「先生からプリント頼まれて、それで……具合は大丈夫?」
「あぁ、もう大丈夫さ。明日は学校に行くつもりだよ」
言葉とは裏腹に、彼の様子は見るからに辛そうだった。
.
[*←][→#]
[戻る]
無料HPエムペ!