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落とし物[公園]



「チッ、またお前か」



交番に入ってきた少女を一瞥し、ジョーカーは鬱陶しさを露わにした。



「俺の所に好き好んで来る奴なんざ、お嬢ちゃんくらいだぜ」

「別に好き好んで来てるんじゃないわ」



子供たちがまたあんたに泣かされないか見に来てるのよ。
少女――アリスも、彼に負けじと悪態をつく。


アリスはここ最近、毎日のように交番へとやってきていた。
目的はというと、先ほど言った通り子供たちの為だ。
……子供たちが泣かされないかが気になったから。それだけ。



「それと今日は……これ」

「あぁ?」



それだけのはず。だった。






 ―――――――






「……なんだよ、これ」



投げつけるようにして差し出されたものを、とりあえず受け取る。
内心困惑しつつ怪訝な表情で見上げると、アリスは真っ直ぐこちらを見つめて言い放った。



「落とし物」

「は?」

「だから、落とし物。そこで拾ったの」



誰が見ても驚くだろう。
その『落とし物』は、小さい黒の箱に鮮やかな赤いリボンをあしらった、それは綺麗なものだった。
落としたようなへこみや、汚れも見当たらない。



「……いや、お前これは」


どう見ても……


「あ、もし持ち主が現れなくても私は要らないから。あなたの物にでもするといいわ」



言いかけた言葉は遮られた。
どことなく遠くを見るようにして、早口で紡がれる声。
思わず、じっと彼女を見つめる。



「……何よ」



不機嫌そうに睨み返されたことにも、腹は立たない。
それよりも、驚きが大きく心を占めている。
そのまま見ていれば、アリスの顔が赤みを増したかのように見えた。
夕日に照らされている所為か、それとも。


なにやら、こちらも照れてしまう。
居心地が悪くなり、態度がぎこちなくなった。
なんなんだこれは。



「あっ」



お互いに明後日の方を向いていた所に、突然の第三者の声。
二人共がびくりと反応した。
入り口に目をやると、そこにはジョーカーの姿がある。

いつも通りの胡散臭い笑顔で、奴は開口一番こう言った。



「それって俺のものじゃないか」



 ・
 ・
 ・
 ・


「え?」

「はぁ!?」



思わぬ展開に、二人同時に声を上げてしまう。
ひとりは唖然と。もうひとりは……。



「わざわざ届けてくれるなんて、やっぱり君は優しい子だね」

「え、あの……」

「……おい、てめぇ」



落とし物を手に取ったジョーカーに、常より低い声で威嚇する。
この『落とし物』は、今は誰のものでもない筈だ。

ちらとアリスを見ると、日が落ちる空のように顔色が変化していた。
そのまま、のろのろと入り口へ向かって行く。



「お、落とし主が見つかって、良かったわ……」



こちらを見ないようにして、歯切れ悪くアリスは言う。
そして、じゃあ私は帰るから、そう言い残し走り出した。



「おい、待て!」



声をかけても止まる気配はない。
この状況に、意外と足が速いな、などと見当違いなことを思う。
アリスが見えなくなっていく。

……落胆、しているのだろうか。



「行っちゃったねぇ」



この片割れはこんな時にも笑顔を崩さない。
いや、面白がっているのかもしれなかった。
読めない表情が癇に触る。



「……」

「おっと」



苛立ちに任せて、ジョーカーが持つ落とし物を奪った。
軽く睨み付けてから、どかりと勢いよく椅子に座り直す。



「これはてめぇの物じゃねえだろうが」

「えー、じゃあ君の物だって言うのかいジョーカー」



笑顔をやっと引っ込めたジョーカーだが、次は非難がましい視線をぶつけてきた。
羨ましいとでも言うように。
それには嘲笑で応えてやる。



「ハッ、んな訳ねえだろ」



黒い箱と、赤いリボン。
落とし主が誰のために用意したのか、例えそれが解っていても。
今は。



「これは『落とし物』だ」

「こんなに綺麗な包装された箱が、落とし物ねぇ……」

「とにかくこれはここで預かる」



ふぅんと呟き、珍しく面白く無さそうな表情を見せるジョーカー。
それを無視して、預かった『落とし物』を戸棚へしまう。



一瞬。可愛げのない顔が脳裏を過ぎった。

――『落とし物』。
なんて、回りくどいのか。



(面倒臭ぇ奴だな)



くつくつと笑いが込み上げてくる。
まあそれも悪くない。
こちらも、精々回りくどく相手してやろうと、考えを巡らせた。






――後日



「あれ? ジョーカー、君そんなの持ってたっけ?」

「てめぇが知らねえだけだろ、ジョーカー」







  終わり?




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