経緯[三月ウサギ]
※「休暇」と「至福の時」の間のお話です。
「エリオット! エリオットったら!」
「なんだ?」
廊下を大股で歩くエリオットは、かなり早い速度で私の塔での部屋へ向かっていた。
こんなに早く進まれれば、いつもなら付いていけない。全力疾走しなければならないかもしれない。
そんな状態では会話などできるはずもないが、それが何故今出来ているかと言うと。
所謂、お……お姫様抱っこをされていた。
「なんだじゃないわよ! は、恥ずかしいから下ろして!」
客間の区画に入った途端に抱え上げられてから、ずっとそのまま歩いている。
人目を避けてくれたのかもしれないが、誰も見ていなくても恥ずかしいものは恥ずかしい。
しかしそうこうしている内に部屋についてしまった。
結局、ベッドに座る形で下ろされる。
「悪ぃ、少しでも長くアリスと一緒に居たかったんだ」
怒ったか?と聞いてくる少し悲しそうな顔。
「……っ」
その顔に、私はすこぶる弱かった。
「怒っ……て、ないわ」
「そっか!」
良かった、と満面の笑みで答えるエリオット。
瞬間、どきりと心臓が跳ね、先ほどとは違った意味で息を呑んだ。
頬が熱い。
(〜〜〜反則だわ……っ!)
見られるのも恥ずかしくて、火照った顔を隠すように俯いてしまう。
すると右側に座った気配がして、横から覗き込まれてしまった。
かなり慌ててしまい、声が裏返る。
「どっ、どうしたの?」
「アリス、してほしいことがあるんだ。 ……いいか?」
え? と首を傾げると、耳元でそれを告げられた。
―――――――
ふさふさとした心地良い感触が、指先から感じられる。
流れに沿って、或いは逆らって。撫でる度にふわふわと気分が浮上してゆく。
(……かわいい)
先ほどから、目線は下へ。膝の上に載ったものへと注がれていた。
そう、私は今膝枕をしている。
「膝枕ってこんなにいいもんなんだな〜」
ころりと顔をこちらに向け、寝転がるエリオットは「ありがとな」と笑った。
どうやら、彼は役無し達の話を聞いて膝枕に興味を持ったらしい。
「でも耳は引っ張るなよ、アリス」
「そんなことしないわよ」
疑わしそうにみてくる顔に苦笑して、私はまた耳を撫でた。
エリオットも私も、お互い心地良さに目を細める。
いつもなら逃げ出したくなるほど甘い雰囲気だったが、今はこの気分に浸っていたい。
「……大好きよ、エリオット」
小さく小さく呟いた言葉は、彼に聞こえていただろうか。
終わり
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