塔の日常[芋虫・トカゲ]
会合期間。
塔へ滞在している間は、ナイトメアの……というよりグレイの補佐をしていることが多くなってしまった。
理由はもちろんナイトメアのサボり癖にある。
今だって、サボろうと逃げ回るナイトメアとの、楽しい楽しい追いかけっこの真っ最中だ。
「ナイトメア様! 逃げても仕事は減りませんよ!」
「そうよ! 観念して執務室に戻りなさい!」
「い、いやだっ! 私は休憩したいんだ!」
いつもは病弱な癖に、逃げ足だけは妙に早い。
それに吐血もしない。
(実は病弱って嘘なんじゃないの…っ)
頭の中で悪態をつく。
すると、逃げるナイトメアが器用にもこちらを振り返りながら叫んだ。
「何を言うんだアリス! 私は病弱だっ!」
「私は何も言ってないわよ! 読まないで!」
読心能力のあるナイトメアには、考えていることが筒抜けになる。
それはもう嫌になるくらい。
読まないこともできるんだから、読まないでくれたらいいのに!
「君の心の声は大きいから聞こえてしまうんだ! 私の所為ではないぞ!」
「読むなって言ってんでしょー!」
なんだか悔しくて、持っていたペンを力一杯投げつけた。
が、簡単にかわされる。
コントロールに自信なんかないから、当たるとは思っていなかった。
だけど……
「どわぁぁぁあっ!」
いつの間にか先回りしていたグレイにとっては、良い援護になったようだ。
思考を読ませないグレイを相手にしてる時に、私なんか気にしてるからいけないのよ。
「捕まえましたよ、ナイトメア様」
「グ、グレイ! 上司を足蹴にする部下がいるか!?」
「残念ながらここにいます」
さぁ仕事があなたを待ってますよと、グレイはナイトメアを引きずって歩き出した。
私は偉いんだぞー! と言う声が聞こえる気がするが、多分空耳だろう。
「冷たい…! 冷たいぞアリス!」
無視することにする。
グレイの横に連れ立って歩きつつ、思いついたことを提案してみた。
「ねぇ、グレイ。 私、いっそナイトメアを椅子に縛り付けた方がいいと思うのよ」
「そうだな…… 一考の余地はあるな」
今度は、考えるなー!と聞こえたが、やはり反応は返さずに執務室へと急ぐ私たちだった。
終わり
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