story 小さき掌(ユリレイ) ダングレストを照らす夕日は、落ちていく。 情報収集とは名ばかりの休みに、2人は橋の段差に腰掛けぼんやり川を眺める。 「どしたの、青年」 「どうもしねぇよ。ただ見張ってるだけだ、気にすんな」 視線すらこちらに向けず、互いに言葉だけを交わらせた。今のでレイヴンが怪訝な顔をしているのは大体想像がつく。 「見張る、ね。お勤めご苦労さん」 「…何か勘違いしてるみてぇだなおっさん」 膝にひじをつけながら、ユーリは斜めからレイヴンの顔を睨んだ。さすがにこれには、彼の方へ顔を向けるしかない。 漆黒の瞳は、不気味な程綺麗で恐ろしい。重力にそって流れる彼の黒い長髪に視線を奪われそうになる。 それを悟られない為に出来るだけレイヴンは素っ気なく振る舞う。対し、ユーリの表情が一瞬緩み、口端を持ち上げ不敵な微笑みを浮かべた。 「…しっかし、おっさん意外と手ぇ小さいな。騎士だからもっと大きいと思ってたんだが」 「…大将にも言われたっけな…」 「大将って、アレクセイにか?」 「そそ。これがまた変なとこよく見ててね。意外っしょ?」 クックッと可笑しそうに笑うが、その笑いは直ぐに絶たれた。ユーリの手によって。 「ちょ、と青年何すんのよ!?」 「小さい手の奴って、要領が悪いんだと。だからおっさんついて行く奴間違えんだよ」 鼻で笑うユーリの手中には、レイヴンの掌がポンと乗っていた。否、乗せられたのだ、ユーリに。 彼の手に触れられる度に照れくさくなり引っ込めようとするが、それは阻止される。 ただ触られているだけなのに、顔が徐々に熱くなった。 「お、大人をからかっちゃやーよ、青年…」 「俺だって大人だしな。大人が大人からかうなら文句もねぇだろ?なあおっさん」 「ぐ…」 「冗談だよ」 クスクスと、今度はユーリが可笑しそうに笑う。 「さっきの、見張るってぇのはな?お前がアレクセイのとこへ行くのを、じゃねぇ」 おっさんが1人で抱え込んで泣かないように、だよ。 グイと体を引かれ、耳元で囁かれた言葉に不覚にも目を見開いた。その瞳から流れる水に気づきもせず。 理由はわからないが声が出せないレイヴンに目を細め、ユーリはまたその小さき掌を包み込んだ。 「とにかく、俺の手離さなきゃ道間違えずにすむぜ。…と言うか、離さねぇけど」 「そんなん、言ったらおっさん、泣いちゃう」 「バーカ、現在進行で泣いてんだろ。…絶対守ってやるから黙って俺について来い。いいな?」 「青年の阿呆野郎…そんな事、一度だって言われた試しがねぇのに」 更に涙腺を緩ませ、俯いたままこくこくと頷く。その掌を、優しい温もりが強く、強く…包んで。 ふらふらと、空を浮遊するかの如くどこかへ飛び去ってしまいそうな鳥を、見失わないようにしっかりと握りしめた。 +--+--+--+--+--+--+--+ ユリレイっつーと、ユーリが兄貴分な設定なのを活かしたくなる。 レイヴンは年長者だからって、きっと強がる。 だからユーリはユーリなりに彼を慰めて、彼の居場所を無くさないように努力してんだろみたいな。 はいそんな感じ。 [*BacK][NexT#] [戻る] |