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story
満足不服、幸せよ(ユリレイ)


ユーリが訪ねた時、喉が焼けてしまう程にレイヴンは酒を飲んでいた。




周りには誰もおらず、真っ暗な部屋でただグラスに注いでは飲み干し、それを繰り返す。




「一人酒か?寂しいなおっさん」




向かいの席に座り、からかうように笑った。けれども、いつもは返ってくる軽薄な言葉が来ない。




「…おっさん?」




月明かりに照らされた褐色の肌。着ている服は何をしたのか乱れていて。

髪を結い上げる紐も、今は解かれボサボサであった。




何よりも、その表情は生気が無く。とろんとした瞳は焦点があっていない。




(無防備な中年だぜ、全く)




「おっさんね。」


「ん?」




話せる分にはまだ体は大丈夫そうだ。虚ろな視線は酒を注ぐグラスを眺め、呂律の回っていない舌は続きを紡ぐ。




「おっさんね。たいしょーとか、きゃなりとか、みんながいっしょでね、しあわせなとき、あったの」




一息大きく吸い込み、吐き出す。同時に彼の肩は緩んで飲み干した酒が再び注がれることは無くなった。


「でもいまね、いるのはおれだけなの。みんななかまはずれにするんだもん」


ねぇ、せえねん。呂律の回らない言葉はより速度を増し、大きくなっていく。荒れていく。




そしてまたせえねんと紡がれた時、同時に擦れるような音が聞こえ、飛び込んできたモノ。




「…ふざけてるなら、今のうちに言っとけよおっさん」




くるくると卓上を回転しながらこちらに渡ってきたそれは、一本の短剣。彼を見つめるユーリの瞳から、光が失われていく。


当の本人は何でもないかの如く、むしろ当たり前のようにその刀身を眺めてうっすらと口端を持ち上げた。




「おっさんだけここにいてもたのしくないじゃなあい。だからおくってってよせえねん、ねぇ」





鈍い音が空気を震わせた。ドシャリと小柄な体が床に叩きつけられて、けれど彼は動こうともしないで、そのまま。


彼の様子を見もしないで、左手に残る痛みにも気が付かないままユーリは肘をつくと、空いた方の手で半分も残っていない酒瓶を仰いだ。




「酔いすぎにしちゃ良い思考回路だな」


先程よりも、遥かに低いトーンで。黒以外何も映しださないその瞳で静かに、音も立てずに、胸の内に湧き上がるものを抑えることもせずに。




「いっつも、んな事考えてるのか。俺達といるとき、ギルドにいるとき、いつもそんなくだらねぇ事考えてんのかよ?」


「せえね」


言い終わるよりも先に、彼の眼前は真っ黒になる。

そして、冷えた体をきつく包む温もり。




「俺じゃ、俺たちじゃ不満か?今ここに生きてるヤツらじゃ、アンタのそばにはいられねぇのか?」




返答は静寂。
それでも良い。



きつく抱きしめていた胸から解放してやれば、酒で緩くなった2つの翡翠がゆるゆるとユーリを見上げる。


頬を、水が1つの筋を描いて流れて反射した。暗闇に差しこんだ月明かりに。




その後これ以上はないくらいの笑みで酒瓶を突きつけられたのは、さすがにまいった。




というのは、余談ではあるのだが。






+--+--+--+--+--+--+--+

ごめんね、せえねん。
おっさん満たされてるのよ。ありがとね。




…オチがなくてよ。

[*BacK][NexT#]

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