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惜別【四】

金色の髪は腰まで長く艶やかで、桜色の唇を引き立てる肌と碧眼。齢の割にはふくよかな胸と括れた腰つきは着物の上からでも十分に理解出来るほど。
この風貌変わった娘が瞳に映し出された刹那、其処にいた者全員が息を飲んで寡黙となった。





「…あ、…ああ、お帰り。鳴子」

漸くと口を開いたのは家主のフガク。次いでに押し入った娘が質す。

「母さん、…これは?」


「鳴子は心配しなくていいのよ。母さんが行くから…‥」


「村里の子たち、私より小さいのに…だったから平気。母さんより、私の方が兄さんの代わりになるし…ー−」


人を化かし操つる狐の術式で家族関係や現況を瞬時に変えた子狐はそう言って明朗に笑い。簡単な荷物を自ら作りて二人の男に連れられた。


類い希なる少女の容姿は極上と認定され、借用書を上回る金額で高く売れると軽く算出される。
涙一つも流さず、始終笑顔でいた根性にも大きな財産を廓に与えるだろうと見越した大盤振る舞いは、己達の手柄にもなるとの憶測も加わり。イタチからの援助を失い、資金繰りに苦しみ積み上げてしまった多額なる借金を御破算とし、大きく上回る釣銭をつけ足した。
これは、うちはの家と代々が護る村里への置き土産だと手渡され、栄えある都へと遊女になるしかない少女は向かったのだった。



サスケにとって最も印象的だったのは屋敷を出て背中を追う己に向かい、立ち止まり、一度振り向き慈愛なる微笑みを見せて快活に手を振った事。


只の化け狐ならぬ強力な妖かしはその日のみならずと続いたが、やはり幼狐だった為なのか暦の月が変わる頃には自然と解かれ、まさに狐に摘まれた気分に見舞われる。

幻術が解けたのを期に、援助はないものと断定しサスケは独学を手止め。フガクは領主として資金繰りに精をだし以前のように労働に励んだ。

而し、暦が過ぎれば過ぎるほど多くとなる恵みを受け取る日々が漠然と続き……ーーー


それでも本来のような仕える者も無い屋敷は相変わらず。食膳に並ぶは雑穀や麦混ざる米に畑や山の幸が少々、村人とも隔てなくと振る舞う質素な暮らし。

何よりも手隙なる時間と安泰を賜われた僥倖に感謝を深めた。

フガクもミコトも怪我を介抱した事により恩誼を感じた御狐様が村里と己達を救ってくれたと話を広め信仰心をも広げ、余計に狐が祀られる。


有り難きと拝む周囲の最中、サスケ一人だけが納得行かずとした暮らしを送っていた。


あの時、心情を漏らさなきゃ…、だとか幻術に操られない精神を持っていれば…等、きりなく悔み、責め、省みを繰り返す……ーー


けれども、あの時の幼狐が変化した娘の行動や姿を強くと思い起こし胸に刻めば未来を信じて現在を打破するしかないと改め、都合良くとする己に戒めつつ毎日勉学や手練に勤しみ確実に力をつけていった。


誰よりも優秀で強くとあり、一刻も早く多くと稼げる御家元の側近への道をと望み、世の改革へと貢献し、あの仔狐を身請けする為と己に翳して鍛錬を繰り返し。
己のしたい事が出来る稼ぎをする身を案じ、有り難さは誰よりも身に染み入れ、そしてもう存分だと欲はたてず。



必ず兄を超え、迎えに行くと強く志して。

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あきゅろす。
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