惜別【参】
山の実り多き秋も深まった頃合い。
招かざる客を迎える。
「董(とう)はたってるがイイ女だ。……こいつは高く売れる。借金も早く返せるだろう。」
「こんな上玉を旦那が一人占めしてたなんて、勿体ねーなぁ…」
「済まない…、ミコト。俺が不甲斐ないばかりに…ーー」
「ーー……サスケが…‥帰る前に…支度します。」
黒い外套を着た男二人組が土足でうちはの屋敷にあがっていた。
一方に顎を上に掲げられるかに取られ持たれた、ミコトは奇声もあげず覚悟を決めた涙声で静かにそう述べていた。
「ただいま…」
そう告げて間も無く振り払う様子でミコトが立ち上がった時 、サスケが敷居を跨ぐ。
慌てて乱れた着物を正す母と、抵抗に乱暴を受けたと思える父の姿がサスケの瞳に宿り、背負った籠をスルリと落ちた。
「母さん…、父さん…‥…これは一体…」
その光景から聴かずとも知れる。幾ら領主の息子であれど散々、村里の幼き女子がこういった類の輩に差し出されていったのを幾度か目にした事から。
「母さんに触るなっ!」
母を衛ろうと突出した風貌に一人の暴君が口笛を吹いた。
「ガキのクセに格好いいねェ〜。それに母ちゃんに似て美人とくらァ。」
「御奉行や城主などの偉方に、その類は多いと聴く。それに何より若くガキのクセに妙な色気のある坊主だな…」
そう言った色浅黒い図体の大きな男がサスケの顎を軽々しく取り、相貌を目を凝らし眺め入る。
「…くっ…‥」
まさかの世。男色家も多くと存在している様。
「こりゃあよ、男にしちゃあ…‥肌も白く、キレイでそっちの気がねぇオレでもゾクゾクしちまうぜぇ。きっとよ、母ちゃんよりも稼げて高値がつくのは間違いねーなぁ?」
横付けからまじまじと見、卑劣に笑う若い男。
しかしサスケは二人に抗いもせず、己が役立つならばと見据えていた。
何か嫌な予感がすると山からコッソリ、サスケを後をついてきた子狐は、庭の陰からこの事を知る。
そしてサスケを助けたいと、サスケに自分のしたい事をさせたいと願う。
まだ力が足らずと人間界なる山奥に降ろされた子狐に元より備わっていた力が宿る。
……ー−
「ただいま。」
玄関の戸を我が家気分で開け、散乱とした場におずおずと変容した姿を現すのだった。
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