惜別【弐】
消沈するサスケの頬を舐める幼狐は幾分かも変わらずな姿。
そして覇気を失ったサスケに今日も山の蛋白質を差し出す。
相変わらず遠慮するサスケだが有り難くと頂戴するのに幼狐はホッと息を衝く。
足取りやらが余りにも心配で山を降りサスケの後をひっそりと追う日々が幾日か続き。
そして今日も小さな獣体を伸ばして樹幹に凭れ座った色合い薄れた頬を舐めていた。元気になれ、と野性的な伝達法で。
「何故、俺はまだ餓鬼なんだ…」
己も同じだと宥め舐める舌を止め、此れなる詞を皮切りに珍しく続くサスケの話を三角の聴覚なる器中へ大人しく入れる。
眠れずに階下へ降り立った時に聴こえた父の溜息は兄イタチを亡くた悲しみに交えて、錯誤とも見受けられる生業や村里へ負担ならずとした生計の末路を表す物であり、それに貢献及ばずな事への悔しさと、将来は兄のように立派なる者になりたいが、その為の勉学や修行に勤しむ時間と余裕がない事、失った兄に対しての悲しみよりも未来に不安を感じる事、などを全て。
そう、サスケは話が出来ず通じずとの前提もあって、この小さな狐に。
友達も一人と居ないからか、今までは一度たりともこんな事を漏らしもしなかったのに、不思議と自然に口零していたのだった。
「何だか曇ってたものが晴れた気がする。」
「…‥…。」
「お前のおかげだ。……ありがとう。」
戻った微笑みと覇気が嬉しく。幼狐はサスケの鼻頭をペロリと一筋通りに舐める。
憂い晴れた顔は久しぶりと安心し、立ち上がり背を向け手振るサスケを見送った、この日。
それより数ヶ月が過ぎた日の夕刻に予期ない出来事が起こる事を知れずと不安のない日々を過ごしていた。
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