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思惑


向日葵の評判は江戸は固より、上乗と広まりゆく。
其れは自来也に奉公と仕官して居る時分にも耳にした。

その度にサスケは思い起こす。

酣となった宴席を過ごす、威厳を保ちた澄ました顔。
己をまるきりと無視する視線。

あの風貌は間違いなくと確信するも、さながら別人のような振る舞い…――。

なれども、再び逢いたいと願う。

あの仔狐かどうかをきっちり確認したくと云々も然る事ながら只話したい、と。

「まさか此処にまで彼奴(あやつ)の名が届いておるとはの!流石のワシも驚いたわい。のう、サスケ。」

さながら己の手柄と自慢気に高らかと笑う自来也を諂う事なく一瞥せし。サスケは仔狐との惜別を思い浮かべる。


「あの日以来、逢瀬はないからの。今頃はどうして居るものか…。」

右大臣である自来也は政事に忙しなくと日々、各地方々での公務を執り行っていた為、江戸には居らず。
ふと数えれば豪華絢爛とした宴を催した時より、もう彼此三月ほどの月日が経っており。向日葵恋しくと焦がれつ空を仰いで双眸を狭めた。

「江戸に帰ったらいの一番で逢いに行くか。」

「………。」

「サスケ、勿論お前もワシの目付として伴うのじゃぞ。」

「……御意の侭に。」

「さて、そうと決まれば、こんな退屈な公務なんぞはちゃっちゃと片付けて、今日中に文を出しておくかの!」

此の先、有事と成り兼ねる事を憶説して足を伸ばし、考案しては対策を錬る事は決して退屈では無く。寧ろ、遊女なんぞに現(うつつ)を抜かしてる方が其れこそ余程に退屈で又、現状はそうした場合では無いとサスケは秘める。

(それ故に攘夷の連中共に老害などと叩かれてしまうのだろう。アイツらも此方同様、情報は網羅してるに違いない…。)

そう、此の江戸の世の在り方に不審を持ち、 此を変えようとの動きが活発となり、幕府は其の旨を危惧していた。

其処でサスケは何の気なしに閃く。

(向日葵ならば、大層な身分の客も相当多い筈。尊皇攘夷などの類と疎通する連中が居たとしても可笑しくはない。自来也はそれを見越して……――。だとしたらこの男、やはり侮れない。)

自来也と肩を並べて歩く最中、フ…と鼻でせせら笑う。

「どうした?
何か可笑しな事でもあったかの?」

「……いや。やはり自来也様は謙遜すべき御方だと今一度、認識したまで。どうか御気留めなく。」

「何じゃかのう、ワシなんぞの風来坊にそう言ってくれるのは有り難いが、お前は堅苦しくていかん。もっとこう、ワシに対してはフツーに話してくれんもんかのう…。」

「いや、それは恐れ多くて、とても…」

「ワシがそうしろと言っているんだ。公務以外の私事では、友人感覚というか普段遣いの言葉で話してくれんか?」

「しかし…。」

「しかしもへったくれもない!いいか、これは命令じゃからして、今から良〜く肝に銘じとけ。」

「……了解。」

「よし!、それとじゃ、もう一つ頼んでくれんかのぅ?」

「?」

「向日葵と寝ろ。」

「なっ!?」

「お前、まだ女を知らんじゃろ?」

「……――。」

「次の逢瀬はお前にとっては裏(※二回目)じゃからの。アイツといくらかは話が出来る。まァ、お前は若いし色男じゃからの!馴染みとなるのは間違いないわい。」

「……いや、それは…。」

「一切はワシが持つ。お前は何の遠慮も心配もせんで良いぞ。」

「…何故、そんな事を…」

「うーむ、そうじゃのォ〜、…ま、聞くだけ野暮って事にしてくれんか?」

「………。」

この時、サスケは己の勘ぐりと相容れたと読み取り、にやりと笑い。そして渋々としながらな素振りを見せて、自来也の計らいを了承した。






一方、大門が閉じる頃、今日も上機嫌で見世を後にしたカカシは、向日葵には未だ言わずと誓いを立てる。変革の兆しみせる時勢、その前に向日葵を見請けし祝言をあげたいと。そう身勝手な夢を見る。



忘八(※廓の主)のヒルゼンは、向日葵の多々なる大尽より連日の忙しくする姿を見ては、自然と顔を綻ばせていた。

此からもっともっと金になる。
多額を積んだ支度金は年季としての奉公となり得はあっても損は無し。
その内、いずれかの旦那に身請けを申されたとしても、巨額な富を得るだろう。

「正しくあの妓は金のなる木。全く以て良い買い物をした。」

そう、安泰を信じて高らかな笑い声を響かせた。




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