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花魁道中

良く晴れた風の無い昼下がり

“向日葵”と縫われた布を背を並べ添う数名の禿と晴れ着姿の新造の中心。
番頭が掲げ持つ、木乃葉屋と遊郭の名が記された大きな傘の袂にて金色の結髪を飾る数多の簪、稟とした澄まし顔が映える。

一段と艶やかさを装った高級な着物。
黒塗りの高下駄をゆっくりと外八文字に廻して歩く姿は三年掛かって、やっとと歩けるとの謂れが嘘のようで。

其の悠然たる捌きや器量には誰しもが立ち止まり、目を遣りて溜息を吐いていた。


「葛葉もいよいよ花魁か。」

「ああ、何でもこの廓界隈、始まって以来の異例な大出世らしいじゃねーか。」

「しっかし、あの浮き名流しな御老公様も奮発したもんだよなァ‥」

「あの立派な浮世絵に、それを刷った手拭い。名入り煙管…って、オイラはもうホラ、手にしたぜェ。」

「バカが、何得意んなってんだか。肝心の向日葵を手にすんのはァ、オメーじゃねぇよ。」

「はたけ様か自来也様か…」

「いや、この絵を描いたサイ様も向日葵に御中心との噂がありやすぜ?」

「嗚呼‥あの器量良しの向日葵と一晩だけでも…なんてーのも俺達には夢のまた夢‥」

「お前さん、それを言っちゃあ、お終いってなもんよ。‥ーーまあ何にしても大見世“木乃葉屋”はこれからも安泰ってな事は間違いねぇな‥」


向日葵の道中を見ようと集まった男達が口々に噂する。

花魁誕生を祝い用意した品が次々と消えゆく。



茶屋の広い二階の座敷前の廊下にて、長い白髪を下げる巨漢がそろそろ此方に参る頃合いだろうと、嬉しそうに窓の外を眺めていた。


「自来也様にこんなに盛大なる祝いを用意して貰えるなんて、向日葵は何て幸せな娘なんでしょう。」

有り難いと、にこやかに笑う楼主と女将の詞にも機嫌よく。

「ワシは新造の頃より、やっと身請けられて去った綱手の傍で彼奴を愛でてきたからのう。これでも足らんくらいじゃよ!」

大口を開いて豪快な笑い声を上げる老公の後ろで顔色を一つと変えずに配り、『遊女如きに大枚を叩くなら‥…』と心中で呟きながらも、二年も前より姿を消して尚も現在、故郷の家へと金を贈り続ける“あの子狐”は今頃、どうしたものか…と胸内に掲げいる少年が一人。


「花魁向日葵の初会の御用意が出来ました故、此方へ…ーー」

楼主と招き入れた豪華絢爛な席に案内され、敷居を跨ぐ。


「のう、サスケ、お前も付き合え。」

「………。」

「いくら小さいとはいえ、お前は次期に一つの地を納える身分じゃろうが。こういう遊びの仕切たりも将来役立つものでな、遠慮はいらん。今日は飯だけだしのォ、まあ勉強しとけ。」


「其方の武家様の御家柄は領主とは…。お若いのに自来也様のお付きになるなんて将来が楽しみで御座います。ささ、どうか御遠慮なさらず花魁のお目通しを愉しみ下さいな。」


「そうじゃぞ、百聞は一見にしかず。向日葵はお前と同い年のおなごにして、大出世を遂げた極上の玉でのう。見る価値は十分…――」

逆らえる訳などなく、座敷に上がり。自来也が席に着いたのを見届けから腰を下ろし。主賓である老公への持て成しに次いて、杯をと継がれ。其れなる間合いを見計らったかに楚々と現れ上座に着いた花魁には一同、瞬きすら忘れて目奪われたりて。花魁はとなりければ老公は固(もと)より、漠然と双瞳を瞠らせし少年を余所とした眼差しをちらりと宴に集まりた皆衆へとおくり。

任せた進行に澄ました唇を開かずと、自来也が用意した宴の式を人形のような顔立ちで過ごすその全容は、高級な出で立ちもあってか常よりも格段と増し。是が非でも遊女とは思えぬ溢るる気品が此又として凛然たる美しさを一層とさせていた。




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あきゅろす。
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