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手練(サイナルコ※R18)


「聞けば界隈きっての異例だとか耳にした。君は、まだこんなに若いのに明日からは花魁だなんて‥凄いね。」

「何も凄い事など、一つもありゃあござんせん。幸せを掴んで去った姐様への御恩を返す順が、唯…わっちへと廻って来ただけでありんす。それに、所詮は遊女。たかが廓で名を張るよりも…お若くして世に名を残すほどの絵師でありやすサイ様の方が誰の目にも断然、御立派で…ーー」

「そんな事ないよ、…葛葉。ボクはただ好きな事をしてるだけだ。キミとは違って…」

肩を抱き一層にと寄り、見詰める視線を近うして真剣味を帯びた言の葉後を伸ばし、物静かに添えた唇へ杯を飲み干した唇を運ばせた間際、華細い五指に遮られる。


「何故…、ボクが嫌なの?」


「いえ‥決して其のような野暮は。‥ただ時分はたんまり、今此処で済し崩しとなるよりも……」

続く句は指先で示すかにサイの唇へ流れ、襟へと落ちて。
静か立ち上がる時には意味深げに微笑み。先へ床へ足入れ、腰をつく。

「ほれこの様に、此方でサイ様とゆったり語らたいなど申し立てる葛葉もまた、好き勝手な輩‥…」

着物の袷目から脹ら脛を覗かせ、片手招く葛葉の仕種は、碧の視線と共に妖しく。

「その黒曜な瞳に映る葛葉は…、サイ様が描かれた、かの素晴らしき絵にも劣らぬ思ひを忍ばせているやも知れませぬ。」

自ら襟足を広く取りた着物の袖先を啣え、顎を上向けて、はらと散り落として惑いをかける葛葉の香が漂い始める。


「‥……ーー葛葉‥」

名を呼ぶとサイは我を見失った様子で葛葉の意に従うかにして被さり、強くと抱擁していた。


それから
葛葉の髪刺さる簪を丁寧に払い抜き、梳き入れた指で髪糸を崩し。前身で結ぶ帯を解き行く手順で振袖を崩しつつ、唇から恋患った感じの溜息を一つ漏らして。

「…ボクは以前から君を描きたいと思っていた。その願いが叶ってからは、君を抱きたいとばかりだった。……でも君は始終忙しくて、ボクはそんな君の姿を垣間見る度、心苦しくて機会を失って。けれど‥今夜はボクだけの……ーー」


「サイ…様ァ‥」


灯籠の明かり照らされ襖に映える影が重なる。

首筋にサイの鼻先が触れる。

「大輪の花のようないい香りだ…‥」


葛葉の腕がサイの背中へと伸び力が籠もる。

明日から花魁ともなれば、何度も通い続けてやっと触れる事が出来る慣わしにより目にする事すら滅多に叶わず。
其れを胸に刻み、葛葉の柔らかな身を愛しむように包み込む。

花魁は客よりも格上と崇められ、上座に位置をおく。
酒を酌み交わす仲になる迄、浪費も嵩む。あちらこちらと各地方々から名が掛かる流行絵師のサイにとって、そうした手間はかけられず。今宵きってと夜を設けた。

そんな事もあり先急ぐのであろうサイの唇や指がせっかちに流れ。此にて、静かに葛葉の呼気が乱れ、肌色が紅潮してゆく。

「‥…ん――…っ‥」


囀りは着物を摺る音よりも華細く、吐息だけを結んだ唇の端から洩らす。

“鳴かずの葛葉”を乱したくと多くの男達が其の柔肌を徘徊したが、今宵も喘声を響かせる事はなく‥ーー


「ボクだけの葛葉…、今宵だけでもキミを感じたい…」


「…感じて‥おくんなんし。この葛葉を…ーー」

反り勃つサイの棹脇を両手指先で摺り上げ。筆落とすような手付けで棹を払いて後、撓わな乳房で挟み包めば雁先のみが浮き上がり。
ちろり‥と赤い尖り舌を鈴口に伸ばして唾液を運び、雁上に紅を分け、含み吸うのはあくまでも雁縁までと続けつ、その下の双玉まで三度緩く、一度激しくと乳房で擦り扱く。
「…っ、…はぁ‥葛ッーー‥」

「んっ、ンン‥葛葉に‥わけて…、サイ様の…‥ーー」

「…うっ、‥ああ…葛葉っ!」


こうして夜の帳が降り、廓の趣を愉しむ者達と遊女の色音がさざめき。


「はっ‥、…はぁっ…綺麗な顔に、ボクのが‥」

「サイ様の‥で、こんなに‥…ーー」

頬や唇端から乳房の先へ垂れ流れるように傾き、放たれた白を尖った乳首に塗りつぶしては頬を染め上げ、潤んだ瞳で見上げる。


「…濡れてしまいました‥…」




誰一人とて
好いた惚れたとは言わずな遊女、葛葉の名を刻む事となった夜を共に過ごした相手は…‥

故郷にて出会い別れた少年を彷彿させる風貌をしていたが為、普段の何処か冷めた営みよりも情状的であり。
感情高い彼は葛葉により魅了されてしまっていた。




而しても、遂げられぬ泡沫と唇を噛み締め、似過ぎる貌の主。
やり切れなさを飲み込んでは、遠き目で姿追う‥碧の眼に切なさが滲んだのを誰も知る由はなかった。






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あきゅろす。
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