Destiny-8 空襲を受けた小さな漁港町で生き延びたのは結局、俺達だけだった。 あれから 幾日か経った日の朝、目を覚ますとナルトの微笑む顔が至近に映る、いつも通りの朝の光景だったが 「 おはよ。」 耳障りな機械音に混ざって聞こえたナルトの声。 この挨拶を最後に 明るい『ナルト』の声が耳から消えた。 言葉を失くしてからというもの、不思議な事にナルトの心境が今まで以上に理解できた。 仕草や表情… ナルトから目が離せない。 離したくない。 ナルトが量を減らして飲んでいた薬。 これが『ナルト』を存続させる最後のカプセル。 ナルトは暫く掌に落としたカプセルを転がしながら戸惑いがちな表情を浮かべ、切なげにそれを見つめ それから顔をあげオレへと視線を移し 声の出ない唇を動かした。 「………。」 「バカ、謝るなよ…。量を減らして頑張ってきたんだ、…いいから遠慮なく飲め。」 金色の柔らかな髪を ぐしゃりと撫で微笑みを向けると 漸くにして小さく頷きカプセルを飲みこんだ。 それからナルトは空になったコップをテーブルに勢いよく置き 無造作に長く伸びた髪を気にし始めた。 「切ってやろうか?」 立上がり鋏と椅子を持ち出して外に出る。 不安気な顔を浮かべるナルトを椅子に座らせた後、テーブルクロスとして使っていた布地を軽く扇いでからナルトの前身へと広げて包み込み項下で結んだ。 「可愛くしてやるよ。」 「………!!‥」 「分かった、格好よく…だな、任せろ。」 頷くナルトを動くなと指示して鋏を動かす。 鋏を進める度々にチョキチョキとする音が靡き細い金色の短糸が次々と地面に落ちて行く。 「目、伏せろ。」 最後に前髪に鋏を入れパラパラと落ちた細かい髪屑を払い‥ 「…出来たぞ。」 髪を切るなんてのをした事の無い俺にしたら上等の出来だ。 ナルトと最初に出会った頃の様を心掛け可愛いくとする任務には細心の注意を促したからな。 布を外した途端ナルトは俺にも振り向かず部屋にと走り帰って行った。 恐らく鏡を見に行ったのだろう。 ナルトの髪が付着した布地を広げバサバサと扇ぐと、風に戦ぎ舞い散るキラキラとした金色の屑糸がまるで蒲公英の綿毛のように思えた。 部屋に帰って目にしたナルトは頬を膨らませブスっとし、前髪が短いと主張するかに引っ張っていた。 「前髪なんざ直ぐに伸びる、安心しろ。」 「……──!!!」 ドンと俺を勢い良く押したと同時、伸し懸かり鋏を俺から奪い 俺の髪を切ってやるとの動作でニヤリと笑い俺の前髪を切りやがった。 真ん中で分けなくても済むくらいに疎らとなった前髪を見て大きな口を開け笑うナルトに「これで揃いだ。」と告げるとキョトンとして瞬き、それから嬉しそうに笑った。 どこに出かける訳もなく、日常変わらずと 二人で過ごし、夕餉を拵え食して 無人となった温泉場に赴き、誰も居ない番台に料金を払い 二人で湯に浸かり 灯が消えた廃墟から灯ある二人の住家に戻り寝床に就く。 限界かも知れない。 明日になったら…… もしかしたら今日が最後の夜… 俺が口に出さなくてもお互い理解はしていたが為の今日の行動。 出さない 出せない感情と表情。声の出ないナルトの代わりに俺はお喋りになっていた。 取り繕うナルト笑顔が悲しいと思えば ナルトもオレの対応が悲しいと感じるのだろう…、と普段よりも喋っていた。 滑稽な程に…… 無理して喋る事をやめろと言うように塞ぐナルトの唇を切っ掛けに月灯が射し込む薄暗い部屋の中、布団の上に寝転んで数え切れないくらいの接吻を紡ぐ。 「……ナルト……」 俺にしがみ抱くナルトが顔をあげる。声色を諭したのか神妙な目付きで。 「ナルトの全てに口付けを注ぎたい……」 「………。」 途切れがちに弾む吐息、ナルト耳元に首筋にと唇を巡らせ俺の証だとした愛しい鬱血を皮膚に刻んで行く… 衣服を繋ぎとめる釦を外して鎖骨に胸に… その上に位置する二つの愛らしい飾りを口に含み吸い尽くす。 「……──、‥」 仰け反る小さな身体 俺の衣服を丸め握る手指の震え 艶やかな顔付き…‥ 肌は俺の赤い点在に染まり… 「ナルト。もう‥いいぜ、感じてるフリなんかしなくていいんだ…」 「…!!?‥」 分かっていた。 一緒に暮らし始めて 戯れていた、ある時から分かってはいた。 ナルトには もう感覚がない…と。 あるフリをずっとしてきたのを知ってはいた。 「ナルトは嘘が下手だからな…。」 違うと首を横に振るナルトを胸に誘い抱き締める。 もう嘘はいいと 辛い思いはしなくていいと伝えるように… 「知ってたよ、俺を傷つけたくてなくてと‥自分は感覚も感情もある人間なんだ、…って頑張ってたんだろ?」 「━━……、‥」 咽ぶ吐息、衣服に染みていくナルトの雫。 ナルトの懸命さは伝わっていたからこそ、俺も懸命になった。 仕事が辛くても ナルトとの生活が何より大切で ナルトの笑顔をみるのが何よりの励みで こうしてナルトを腕に抱けるのが生き甲斐として現在の状況を把握してきた。 本心から人を愛しいと思ったのはナルトだけだ。 性別も何も関係なく…… 「ナルトが兵器でも愛しいよ…。どんなになってもお前は俺の恋人だ。」 しゃくる息が途切れたと思った瞬間 ナルトの唇が俺の首根に落ち、 深く、強くと吸い付き 紅い紅い痕を更に染めかに吸着した。 「…ごめん…な、サスケ。」 朝の陽射しより先に 俺を押し退けて涙するナルトの声で目を醒ます。 その後にした光景の 異様さより ナルトの身が心配になった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |