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認識


満足だと言うように前足で顔洗う。
ナルトのそんな仕草も微笑ましい。

『なあ、サスケ。』

「何だ?」

『あのさ、お前さ、…さっきあったコトって覚えてるよな?』

「ああ、それがどうした?」

『ヘンだな…って思わねーんか?』

ナルトを見た瞬間から気にしちゃなかったが、指摘されてみたら確かにそうだ。
二度も外車に轢かれ、即死しても可笑しくはない程度の大損傷を覆ったにも拘わらず、この身体にはその傷痕が一つも残っちゃいない。
それは勿論だが、ナルトと他愛なく会話が出来ると言うのも非現実的だ。

「まさか、これは“夢”…なのか?」

そうだとしたら辻褄(つじつま)があう。
実在する俺は意識不明の重態で病床に就いてるとしても何ら可笑しくはない。

『“夢”じゃねェ。これは“現実”だってばよ。』

不甲斐ないとした表情で兎口(みつくち)から溜め息を漏らして、またもや哀しげに俯いた。

『アレが“夢”だってんなら、サスケとはこうして話せねーんだけど、……そっちのがオレは嬉しいってばよ…』

「………。」

床を踏み込み並べている二つの前足の甲、短い指の筋目にポタリと小さな水滴が二つ落ちた。
それがナルトの放った意味を教えてくれた。

「…そうか。俺はもう――」

『………母ちゃんから引き離されて捨てられたオレのコト、お前は助けてくれたってのに、オレはお前を庇うコトも助けてやるコトも出来なかった……』

無念だと垂れた頭(こうべ)をゆっくりと撫でるとナルトは今にも浮かんだ水玉が溢れそうな潤んだ瞳で俺を見上げ兎唇の奥をぎゅっと噛み締めた。

ナルトはやんちゃで元気はいいが、温厚で従順なヤツだ。

害虫とされるものを退治するが為の攻撃や捕獲はするが、動物や人間に対して攻撃したりはしない。
ガキなんかにしつこく触られようが人間には一切手を出さずに我慢していた記憶もある。

予防接種を受けに動物病院に行った時、吠える犬にも怯えず、キャリーケースの中から興味深く目を輝せてたな。
“遊ぼう”とミーミー鳴きながら。
注射を打たれてからはビビって、やけに大人しく丸まってたが、同じような月齢の猫が不安げに喚き鳴いてる姿を見れば“がんばれ”と励ますように明瞭な声色を待合室に響かせていた。

月に一度、恒例となったシャンプーを成長してからも嫌がり暴れたが、俺と一緒に湯船に浸かると得意気に泳いで見せたりもしたか。
水が苦手な筈なのにな…。

ナルトと過ごした一連を思い起こせば自然と柔らかな空気に見舞われる。
和やかな気持ちになれる。


ナルトがあの時、立ちはだかるようにして玄関で必要以上に唸ってたのは、俺の生命の危険を予期し、必死になってそれを伝え、俺を守りたかったからだと安易に憶測できる。

それなのに俺は……

込み上げる思いのままに、ナルトを強く抱き締めた。

「すまない」との呟きを噛み締め、鼓動を打たない胸板にナルトの横面を押し付けて暖かいナルトの温もりに浸っていた。

やがて訪れるだろう惜別の時まで、こうしていたいと望みながら……――





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