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悪夢

鳴戸が入ったレンジで温めるだけで食べられるラーメンと奮発してナルトの好きな猫缶を買い、コンビニを出ると案の定、小雨がパラついていた。

嵩増える水溜まりを散らしながらナルトが待つ部屋へと急ぐ。
幾ら都内とはいえ、中心地から離れた住宅街の私道ともなれば、深夜を過ぎた景色は益々閑散としており、寝静まった人々の気配しか感じられない。

そんな折、遠くを照らす上向きの青白いライトから逃れるようにして走る一人の女が対面から飛び込んで来た。

「た、助けて!お願――…っ!!」

動転して切羽詰まった力でしがみついてきた女が、昔馴染みの知り合いだと気づいた頃合、相手も同じく俺だと認識し語句を詰まらせる。

「!!?」

その刹那、尋常じゃないスピードで突進するハイビームに目を眩ませつつ、切迫する危機からサクラを庇い、その状況から逃がすが為、反射的に楯となり、頑丈な塀際へとサクラの身を追いやった。
軌道修正をせずに、此方へた突っ込んだ車体の衝撃を受け、俺の身体が宙へと舞う。

サクラを押し出すも離さずと持っていたビニール袋は破れ。飛沫を放ち、彼方此方へ缶詰めが転がり落ちる。

大きな波紋を広げた水溜まりが、じわじわと紅色に染ってゆく。

「……無事‥か?」
「サスケくん!サスケくん!!」
「…ナルトに…飯…食わさ‥ねーと…」
「今救急車呼ぶわ。だからしっかりしてサスケくん!!」

頭を強く打ち叩かれて動かない身体の上で起き上がったサクラの涙が頬に零れ落ち、雨粒と共に流れゆく。
その声色と動作から無事を確認する。

意識はまだ混濁しちゃいないが、全身の感覚は麻痺し、視界は既にぼやけていた。

その最中で忍び寄る気配を察知し、ダラリと落ちて震え打つ両手を持ち上げ、俯せるサクラの肩を掴んだ。

「早く…逃げろ。」

「わかってる。でも、私を庇ってこんな風になったサスケくんを置いてなんて出来な――!!?、‥あっ!、……う゛…ッ!!」

肉体に刃物が突き刺さる濁音と同時、湿り気を帯びた呼気が漏れる。
その都度、サクラの身が跳ねるかに退けぞり、終いには俺の身に滑り落ちて重たく伸し掛かった。

「これでサクラさんはボクのモノだ。」

サクラを死に追いやった影が、力尽きた冷たい身を抱き上げ、勝ち誇った声色を闇夜に響かせたが、それが誰のものなのか曖昧な視界や聴器では的確に捉えられず、断定出来ずにいた。

前面が凹んだ外車の助手席にサクラを座らせ、後退すると、再び俺の近くへと車を寄せた。

「残念だけどそういう事だから…――、さよなら、サスケくん。キミは地獄に堕ちるといい。」

アクセルを踏み込んでエンジンを大きく吹かせると、止めを刺すが如く動かない俺の身に轍をつけ、その男は去って行った。
俺とサクラをこんな目に遭わせた輩の推測はつく。
…恐らくアイツだろうと。

だが、そんな事を憶測して後を追うよりもナルトが酷く気掛かりだった。

雨注ぐ地面を転がっていた小さめの缶詰めが、俺の左手の平内へとうまい具合に転がり込む。

これは缶詰めの中でナルトが一番好きな餌だ。
腹を空かして騒がしく鳴いてるだろう。

「……ナ…、ル…」

早く帰って飯を食わせてやりてェ。

全身に降り注ぐ雨に紅が溶け続ける中、それが俺の最後の望みだと心に焚き付け、遠退く意識と共に深く瞼を閉ざした。





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あきゅろす。
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