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予兆

長い任務を終え、寄り道もせずに帰宅する。
いつものように玄関先で「ニャー」と鳴く声が、鍵を差し込み回す音に混ざる。

「ただいま。」
「ニャァー!」

俺を見上げ出迎えてくれたのは、ナルトと名付けた一匹の牡猫。
帰宅した途端、真っ先にコイツに餌を与えるが習慣だ。

「腹減っただろ。待ってろ、すぐ用意する。」
「んニャン!」

部屋に上がった途端、ゴロゴロと喉を鳴らし、足元に擦り寄るナルトに構わず、常備する猫缶を取り出したく、台所の戸棚を開ける。

ナルトとは一年前、俺は社会人になったばかりの頃、一人暮らす自宅マンションの近くの道端で出会った。
まだ母猫の乳を欲しがる小さな子猫は、百獣の王の子供みたいな金色にも見える毛並みに碧色の瞳を悲しいそうに輝かせ、「みー」と弱々しい鳴き声をあげ俺の後をついてきた。

種別は解らないが血統書付きの猫だろう。高そうな感じだ。
そういった雑種ではない野良猫は今時珍しくはないが、仄かにするシャンプーの香りから恐らくペット可と謳うこのマンションの住民が飼っているに違いない。そう踏まえ、一時的に預かる事とし、常時滞在するマンションの管理業務をする者に即刻その旨を伝え、飼い主を探して貰った。
管理会社の連中は、このマンション内だけでなく、近隣の住民にも尋ねてくれてたようだったが、一向に子猫の飼い主は見つからず。

俺を頼り、懐く幼い猫に情が湧かない訳はなく。
ラーメンの鳴戸を好んで食す事から“ナルト”と名付け、今日に至る。

「餌、切らしちまったか…。」

買い置きしてあった缶詰めは底をつき、冷蔵庫を開けるがナルトが食べられそうな物は疎か、俺の夜食すらなく…――


「仕方ない、買いに行くか。」

飲み水だけを取り替えて玄関へ向かう。
すると、立ちはだかるようにナルトが四股を踏じばり威嚇するかに毛並みを逆立たせ「フー」と唸り続けた。

「何だ、行かせない気か?」

「う〜…」

「いくら腹空かせてるからって、そんな怖い顔するなよ。」

そう言って抱き上げたが、ナルトは機嫌が悪いらしく。未だ「う〜」と低い声で唸り睨むようにして、碧色の瞳を据えている。

「お前の飯を買いに行くんだ。…すぐ帰ってくる。」

逆立つかにピンと立つナルトの耳と耳の間に額をつけ擦る。こうすると、普段は機嫌を直すのだが、今は通じないらしく。威嚇するように低くと唸る。
それほど、腹を空かせて気が立ってるのだろう。
今夜は仕事が押し迫っていた為、いつもより帰りが遅かったからな。

俺はナルトの意図をそう読み取り、ナルトを玄関のフローリングへそっと下ろして扉を開け外へ出た。

「フギャアーォ!!」

一度大きな声で叫ぶかに鳴き。締まり切った扉に爪立て、ガリガリと引っ掻いて、引っ切り無しに「ニャアニャア!!」とナルトは喚き鳴いていた。
ナルトの空腹を逸早く満たしたく、馴染みのコンビニへと走る。

雨が降り出しそうな夜空だったが傘も持たず、ひたすらに…。





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