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accident-5


それから数日…ーー


「あっ、気付いてたんだ?」

診察にきたカブトが箇条書きなるサスケの日記に目を通して“また今日も一輪、違う花が花瓶に”という一文に目を留めた。

「毎日、どっかから摘んで来た花一輪と汚い字でかかれたメモが面会謝絶の札が掛かった扉に置いてあってね。」


「…一体、誰がーー」

「綱手様やシズネさん、それに看護士達の話だと、その子は君の同級生らしい。何でも、君が長時間に渡る手術を受けてる時、ずっと待機室で祈るようにしてた子で、それから毎日来てるみたいだよ。」

「だから、それは誰なんだ?」

「たまたま花をドアに置いてた時に一度だけ会ったけど、内緒にしてってその子に言われ約束しちゃったから悪いけど教えられないなぁ。」

「…花なんざ置いてくなんて…女か?」

「そうだ、誰だろうって思い巡るのもいいリハビリになるから、それは課題にしとこうか。」

「……。」



カブトが日記帳を閉じて病室を出た矢先に考える。

しかし級友の名前も顔も思い出せやしなかった。

自分の名前に年齢、家族の事は残存してるも、それ以外の事に関しての記憶は非常に曖昧である。

「誰かは知らないがいたハズだ。俺にも友達ってヤツが……」

ふと過ぎったのは幼少のある頃合いを境に己をライバルだと勝手に決め付け、常に挑発的だった外郭…ーー彼のペースに嵌れば柄にもなくムキになっていた気がする。

ぼんやりと照らされる思い出。

印象強い事柄がテレビを観てるような感覚で脳裏へ浮かぶが、一体彼がどんな顔をしてたのか、どんな名前だったかは皆目見当もつかず。ただ頭だけがズキズキと痛みだした。


「畜生…」

痛む額を掌で押さえて項垂れ己を呪う。


どんなに記憶を遡ろうと辿っても、情けない事に思い出せない。

サスケは癇癪を起こしたように黒髪を掻き毟った。



そんな日々が連なる侭、カブトが病院を去る。

その次の日には面会謝絶の札が外され、「今日から院内を自由に徘徊出来るようになった」伝えられた。

昼食を終え、夕陽が広がる頃合いノック音が聞こえる。
検温の時間かと思い、放っておくと徐に扉が開いた。


「サスケくん……」

サスケを見るや否やポロポロと涙を流した桜色の髪の少女が眼に飛び込む。

「誰だ」と訊ねるよりも早く、少女は感情露わとなってサスケに抱きついていた。
サスケは吃驚する事なく活力の無い眼差しを縋り抱く少女に向けたのみであったが、己の生存を喜んでくれてる存在がいる事を暖かいと感じていた。

少女を筆頭に幾人かの級友達がサスケの周りを取り囲む。

「よかった」と見せる笑顔には記憶はないが何処か懐かしい気がした。


周りが談笑する最中、持って来た林檎の皮を剥くのは突発的にサスケに抱きついた少女。

彼女は春野サクラという名で、小学校からずっとサスケに好意を抱いていると、山中いのと名乗った少女の口から話される。

「いのったら、そんなハッキリ言わなくったっていいでしょう!」

照れたように頬を染めるサクラを軽くあしらい「私も!」とサクラ同様サスケへ好意を寄せている事を示し、いのはサスケに抱きついた。

「ちょっとォ!サスケくんが困ってるでしょ!?」

「あら、いいじゃな〜い。デコリンちゃんだって、さっきはサスケくんに抱きついてたんだからァ」

おあいこでしょっとサクラに嗾けるように笑う。

「離れなさいよ、いのブタ!」

うさぎに模して剥いた林檎の一片を握り潰して殺気立つ様は先程とは打って変わっていた。


こんな情景は常日頃だと無遠慮に林檎を貪りながらふくよかな体型をした少年が零せば、サクラの怒りの矛先が其方に変わる。

「それはサスケくんにって持ってきたのよ!アンタは食べるなァ!」


級友達の賑やかな声が響く。

(この中に微かにだが唯一、思い出せた奴がいる筈…)

そう思い視線を馳せるも、誰しもが該当しない気がして日記を開き、忘れないようにと紹介された人物の特徴と名前を記した。


この日からサクラは毎日のようにサスケを見舞い、何かと世話を焼くようになった。

病院内でサクラは“可愛い彼女”と称され、それを耳にする度サクラは浮かれていたが、記憶のないことを利用してサスケへの恋心を成就させようとは微塵も思ってはなく。ただ自分が少しでもサスケの役に立てれば良い…と学校が終わり次第、真っ直ぐに病院へ向かった。休日ともなれば朝早くから訪れたりもした。

「天気がいいわね。ねぇ、散歩しに行かない?」

サスケの手を取り中庭へと誘う。

潮緩やかな海面が温暖な気候特有の色鮮やかな植物が並ぶ間から見える風景に合わせた南国調のカフェテラスが作る景色は病院の中庭と言うよりはリゾートホテルそのものである。

「…サクラ」

「なに?」

「訊きたい事がある。」

毎日サクラと呼んでくれるのは、昔馴染みで厳しいながらに自分を孫のように可愛いがってくれる綱手から事情を得ていた事もあり嬉々としていた。

「扉の向こうに毎日置かれる花、あれは一体誰がなのか、知ってるか?」

「ごめんなさい、私もわからないの。」
「そうか。…なら、俺と一番関わりの深かった奴がいたと思うが、そいつが誰か教えてくれないか?」

「それは……、きっと私なんじゃないかな?、恋人みたいな感じで毎日一緒にいたし…、って私ったら何暴露しちゃってんのかしら。きゃあーー!?」

サクラは知ってはいたが、綱手から口止めされていたがためにわざと恥ずかしながらもおどけつつ、嘘をついた。






「催眠療法から仕入れた情報より家族以外で最も心象に残ってた人物がいた。それをサスケには伏せておきたいのだ。リハビリの一環としてな。」

「それは誰なんですか?綱手さま」

「毎日、花を届けにくる奴だ。」

「え?」

「お前も良く知ってるだろう?」

「…あ、……はい。」

「男同士だからこそ理解出来る感情からなのかもな。顔も見せずに毎日あんな事をするのは…」

「ナルトも意固地だから…」

「ナルトの名前や話を出さないのなら、様態も良くなったし明日にでもサスケに会ってみるか?」

「本当ですか!」

「但し、クラスの連中と共にな。」


綱手との約束はサスケの役に立つからとサクラは彼女なりに手を打ち、努力をしていた。それはサスケやナルトには知れずな配慮である。


「よぉー!サスケー!!」

元より口数の少ないサスケとの会話が途切れた間に思い浮かべていた綱手とのやり取り。
そこより沸いたサクラの刹那的な杞憂は、背後から走り寄る元気の良い声によって掻き消される。


「いちいち走んなよ、キバ。めんどくせーからよ。」

「だってよ、シカマル。久し振りなんだからしょーがねェだろ?」


「デートの邪魔ついでに茶でも飲もうか?」

「カカシ先生が見舞いがてらに奢ってくれるらしいぞ。」

親指でガーデンスタイルのカフェを示してゆっくりとした語らいの場へと誘うカカシの傍らでイルカがニッコリと微笑む。
サクラは“デート”との句に過剰に反応して赤ら顔となり独りごちり始め、キバやシカマルの視線を白いもの変えた。

「イルカ先生に言われちゃ仕方ないか…。」

現担任であるはたけカカシと言う名の男性と小学校時代の担任であった海野イルカと名乗る男性に招かれカフェに入り、テーブルを囲う。

この二人はキバやシカマルと名乗る級友二人と一緒になって、これまでのサスケの学校生活や学習の様子をサクラも語っていた。

「そーいや覚えてるか?サスケ、お前の口癖っつーか…――ま、アイツだけに言ってた気ィするけどよ。ウスラトンカチって…」

「シカマル!」

サクラが睨みを効かしてシカマルの足を軽く蹴る。

「アイツ、見舞いにきたか?」

「キバまで、いい加減にしてよ!」

「まあ、まあ、ヒントくらいいいでしょ?」

「カカシ先生まで何よ!!」

「アイツは小学校の時からサスケのことやたらと気にかけてたから…」
「イルカ先生!!」


名前は決して出さずも明確な様子がわかる話に興味津々と耳を傾けるサスケの脳裏に思い浮かんだ一種。記憶の底に埋もれていた断片が結びつくかに姿を現す。

「…ナルト。…あの馬鹿…」


親友でライバルだからこそ、姿を現さないのだろうと知れる。
ナルトとの話を聞けば聞くほど彼の心情を察し、ナルトのことに関してのみ僅かであったがサスケの記憶が蘇っていった。


そんな事は知らないのか、ナルトは一向に姿を現さず。
サクラが苛立ちながら「ナルトの奴…」と口にする度、サスケは心の中で笑っていた。



「毎日、来てるのにな…」

「え?」

「いや、何でもない。」

フッとサスケは一連を知れたように笑い、ナルトという少年に疎通した思いを沸かせ、いつしか自分が口癖のように言っていたと聴いた、あの言葉を吐き捨ててやろうとメモを取る。
(全てを取り戻す事は不可能だろうが、必ずあの頃と変わらない態度で、言ってやる。)

「サスケくん…」

思い詰めて抱きつく少女の気持ちを逸らすかに扉向こうをサスケは見やった。
一輪の花と乱れた字面のメモだけを置き、姿を消す少年に早く逢いたいと願いながら。
しかし、現在まさにサスケの目の前に居り、サスケがスケッチブックに認めている金髪碧眼の少年、“うずまきナルト”に向けて、その言葉は未だ発しては居らず。

中学校の教室で目があった時、徐に近寄り「ありがとう…」と感謝を述べただけであった。


「お前に感謝される事なんて、これぽっちもねーってェの!」

ベーッと出した舌、その後はフンと踵を翻してナルトは横顔を向けて席に着き、そこから斜め後ろの席へと腰を下ろしたサスケと視線を繋げ。そして口許を緩やかにして、へへっと照れ臭そうに笑った。

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