accident-4
カブトが開発したという機材が導入された明くる日、早速とその治療が施された。
脳内を主に心身のデータ収集や身体器官と機材との照合具合を確かめ、脳内環境を整える事に2日、3日は専念し。
それから程良く精神と肉体が安定した環境が造られたと確信した時分で目覚めさせるよう脳神経をコントロールし、愈々サスケを覚醒させた。
「気分はどうだい?」
「ここは…ーー」
起き上がる事なく静かに瞼を開いたサスケは瞳に現実を宿して数度鈍く瞬き、ぼんやりとした様子で辺りを眺め、島の病院の一室だと言う事を認識して、それから何かを察したかに溜息を零した。
「初めまして、うちはサスケくん。」
サスケの容態を窺うように名を呼びかけたカブトは己が主治医である事を伝え、サスケが横たわるベッドを程よい角度に起こす。
サスケは一度カブトに視遣ると、己の身体と機材を繋ぐ幾つもの管を流し視、単調な機械音に耳を傾ける。
己の置かれた現況を知り、若干のショックはあっただろうが心身や脳内を示す波形は一定を表し。依然、サスケの精神が安定している事を知らせていた。
この事から全てを明かしても良いだろうと判断したカブトは現在に至るまでの経緯を出来るだけ簡易的にサスケへ話し、家族の訃報を識らせた。
「……――何度も見た悪夢は現実だったか。」
サスケは暗い瞳を伏せがちにして現実を受け入れる。
堪えるように噛み締めた唇を震わせて拳を強く握り込んで。
「さて、ここからはサスケくん。君の容態について話そうか。」
カブトの話によると時が経てば外傷は殊の外、残らないが傷ついた脳の修復は完全にとは行かず。体感した記憶を僅か12時間しか留めておけないという障害と向き合わなければいけないとの事。
「…それはいつ治る?」
「残念だけど、脳神経の損失は生涯、完治しないだろうね。」
そう、この拘束は一生続く……―――
「………もし、12時間、眠り続けたとしたら俺はどうなる?」
「全ての記憶をクリアすると同時、君の脳内にフラッシュバック現象が起こる。」
「フラッシュバック…」
「フラッシュバックにより脳内に焼き付いた事故の衝撃的な記憶が呼び覚まし、そるをスタート地点にして新しい記憶ファイルを作る。君の場合、そういうシステムを君自身で無意識に植え付けてしまったらしい。」
「つまり、サスケ。お前は歳を幾つ取ろうが12時間以上眠ってしまえば、事故を起こしたまでの知識や情報しかない状態になるという事だ。」
背後から現れた綱手の補足にカブトは口を紡ぎ、一旦、この場を綱手に預けサスケの身体をチェックしはじめる。
「それとな、いくら許容を越えた眠りに就かなかったにしろサスケ、お前の記憶は1時間毎に消えてゆく。刻々と流れる時間の最中、許容範囲内の中で新しい記憶を取り入れる為にな。」
「……現在、アンタらから聞いた事さえ時間が経ったら消えちまうんだな…」
「ああ、そうだ。」
愛想なく話す綱手を押しのけるようにして、カブトは点滴の促進を緩やかなものに変え、寡黙となるサスケに気安い顔を覗かせた。
「まあ、欠損した脳組織を代用するものが現在の医学ではないから仕方ないけど、命にかかわる事はないのが幸いだし、多大なストレスを取り除く切っ掛けさえあればフラッシュバックの方だけは何とかなると思うよ。それと、君の頭の中の記憶は消えても残す手段は沢山あるしね。」
「…記憶を残す手段?」
希望はあるとカブトが頷き懐から本のような物を取り出した。
「例えばこの日記帳に、君が感じた事、思った事、関わった事、体感した出来事を有りの侭に書き残すという方法。パソコンや携帯の動作を事故前に覚えているなら、そういった媒体を使うのもありだけど。」
カブトよりバインダー式の日記帳がサスケに手渡される。
早速開いて見ると最初のページに分かりやすくサスケの病状が記されていた。
「じゃあボクはやる事が山ほどあるので、これで失礼するよ。」
カブトが病室の扉を開け出てゆくと入れ替わるようにシズネが現れた。
「次の患者さんが待ってますよ、…綱手さま。って、あ!サスケくん!!」
平常な態度で字面を眺めるサスケを安堵した笑顔で見つめ、綱手の背中を押してニコニコと病室を後にしたシズネには一度も目をくれず。
サスケは早速、後で自分が読み返してもわかるよう簡素ながらに体感した事を纏め、綴っていた。
ただ喪失してゆく記憶を補うための文体が淡々としていたのは病室内だったからという理由だけではなく、将来の夢も希望も現時点のサスケにはなかったが故と、彼は言葉に著す事が元から苦手だったのも相俟ってだった。
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