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accident-3


そんなある日、サスケの縁者であり“うちは財団“総裁のうちはマダラが、若き天才と称賛される薬師カブト博士を引き連れ、集中治療室以上に設備の整ったサスケの病室を訪れた。
サスケの身内として見舞いに訪れたのはマダラの他に、下町で煎餅屋を営む夫妻と、京の都より訪れた遠縁の日向一族本家の少女と宗家の少年とくらいで、いくら面会謝絶とは言え、家族を失った少年の身を案ずる身内が少なすぎると綱手もシズネも憤りを感じていた。


「サスケはまだ目覚めぬ侭か…」

「目覚めては錯乱して再び一日中眠る事を繰り返し、精神的にも肉体的にも回復が遅れている状態だ。」

綱手がそうマダラに答えた傍らで、カブトは何十もに及ぶレントゲンとカルテに目を通し、此の国では一番の外科医と唱われている綱手の敏腕なる技巧に謙遜していた。

「綱手様だからこそ、この脳組織に媚びりついた血栓を剥離(はくり)する事が出来たんですよ、マダラさん。」

「綱手には千手柱間の才能と意志が確りと伝授されているからな。その技術に於いては安心している。しかしだ、彼女は心療分野は得意ではない…」

「…残念ながら否定は出来ん。」

マダラと嘗ての病院長の柱間は、その時こそ領分は違うが幼少の砌(みぎり)より互いを認め、学業にスポーツにと何事も競い合った、云わばライバルであり、互いが唯一の理解者であった。

マダラが率先して、この島国の開発を手中に納めたのは千手柱間の直系、綱手が居るからこそと柱間が設立した此の病院があるからこそだった。

此処、木ノ葉病院は今や全国各地に点在する医療法人千手会グループの本拠地である。“低料金でも行き届いた確かな医療を”という先代柱間の確固たる志しが独自のシステムを作り、今日までを築き上げた。
しかし、国医師会は此が疎ましく。柱間亡き者となってからは目の上の瘤が失せたと、本拠を主要に著しく批判をし評判を落とそうと躍起になっていた。
そんな情勢を知ったマダラは、これを案じて“うちは財団”の総力を以ち国側を煽り、医師会と疎通する財閥等に脅威を植え付け、此の島国開発権を得ると共に医師会の企てを阻止したのだった。

しかし綱手は微塵もそんな経緯や内情は知らず、相も変わらずとマダラを嫌悪していたのである。
『私の管轄内までも金と権力を振りかざす気か。昔から地位や名誉に拘る嫌味な奴だ』と。
とは云うもの、これも身内であるサスケの回復を願っての行為だと追い返す真似はせず、眠っているサスケのを見守るようにマダラの横で佇んでいた。


「薬師博士は、わざわざ海外アカデミーから引っ張られて来たようだが、一体いくらで此の男に買われたんだ?」

不躾な質問が精一杯の拒絶として。

「すみませんが、今は依頼された患者の診察と処方に専念したいのでね。その事で興味がおありでしたら後でお話しますよ、綱手様。」

眼鏡の架け橋を揃えた指先で押し上げるカブトは掴みどころが無さそうにニヤリと笑う。

「……いや、失敬した。私もサスケの治療に専念したいのでな。以後、宜しく頼むぞ。」

私情を挟んで立場を忘れてしまった綱手は己を卑下して、此を最後に余談なる口を閉ざし、以後はシズネに対話を任せる。

「記憶障害が幻覚を引き起こしパニック症候群に陥る事例は多いけど、サスケくんの場合は記憶を司る神経機能の損傷からの障害もあって色々と厄介そうだね。」

「はい。覚醒するたびにフラッシュバック現象を起こして酷く暴れてしまうので体力を酷く消耗し、経過も良好とは言えません。」

「トランキライザー(精神安定剤)などの投薬を中断して、副作用のない催眠療法に切り替えてみようか。レム睡眠時を利用して厄介なトラウマを引き起こす原因になる夢を除去し、素敵な夢をサスケくんに見て貰う方法に。」

「睡眠中にある程度のサブリミナルを行い、軽いマインドコントロールを謀る事は可能かと思いますが、そう簡単に心的外傷を取り除けるとは思いません。ましてや夢を都合良いもの変えるなんて、そんな事は不可能かと…」

「まあ実状は難しいかもだけど、ボクが開発したシステムを導入すれば可能だよ、シズネさん。まだ実験段階なんだけどね。」

「サスケで人体実験しようって腹か?だとしたら私は許さん!」

実験段階と言う詞に腹を立てた綱手の声が病室に響き渡たり。カブトが肩を上げ下げしてクスリと笑った。

「嫌だなあ、そんなつもりだったら、とっくにマダラさんに殺されてますよ。ねェ、マダラさん。」

「オレに反抗的な面もあるが、サスケは我が一族直系なる卑属なんでな。モルモットなんぞにはさせるつもりで呼んだのでは無い。その点は安心して欲しい。此の眼で確りと見て来たしな。」

「まあ、そういう事です綱手様。人体実験でのデータは何例かあるし成果もあります。脳障害を持った患者(クランケ)にも実証済みですしね。ただ実用化には時間がかかるのは貴女も御存知の通り。だから実験段階だと申しただけ。あのサソリ博士やアカデミー内では既に賞賛されてますよ。」

「人体脳移植に成功したサソリ博士のお墨付きか…。シズネはどう思う?」

「…はい、私の一存では賛成出来かねますが、既に人体にも用いられて医療先進国のトップであるアカデミーや、あのサソリ博士のお墨付きでしたら信憑性も高いと思います。それに、こうした積み重ねこそが医学の発展にも繋がると思いますので、試してみる価値はあるように思いますが。」

「…担当のお前がそういうなら好きにするが良い。」

「有難う御座います、院長先生。」

「無駄足にならなくて良かった。じゃあ機材が届くまでの数日間は、睡眠中の脳波や組織と身体全容など細かいデータを取っておこうか。覚醒時の患者の様子も実際に見なきゃならないしね。」

「私の患者に何かあったら、カブト博士、一生お前を恨むからな。」

渋々ながらにその治療法案を了承した綱手は、シズネを補佐につかせる事を条件に、一切の治療をカブトに任せたのである。そうは言っても全責任は己にあると心してサスケの逸早い回復を願った。



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