Promise-14
いきなり
吹き荒れた突風。
舞い上がる灰塵。
反射的に顔を背け片手を翳し、眉間を寄せ固く瞼を閉じる。酷く荒んだ風に身まで攫われそうになり力を下肢に蔓延らせて
豪風の音が止んで直ぐ、眇めた目付きで瞼を開く。
現れた情景に奪われた瞳は、瞬き一つする事さえ忘れてしまっていた…
まるで
最期の力を振り絞ったかに垣間見せた風雲に滲む赤色。
空白を取り払う風に
姿を見せた紛れもない現実…
その侭の視線を保ち立ち上がると、フラつきつつ“それ”へと歩き、近寄った。
白灰が隆起した場所に現れた片翼……
墜落したと思える
大きな機体は恐らく、
この灰を突き破り土砂の奥深く迄に達し、埋没してしまっているに違いない。
空を翔ぶ事が出来なくなった翼は風が吹く度、バラバラと焼け爛れた金属の表面と塗装を剥がし、細かい粒子を空気に散らした…
「……待って‥たんだな、
‥…お前‥──」
ナルトは俺より先に
約束の場所へと来ていたのだった。
最後の力を振り絞り
尽き果ててまで…‥──
煤や灰を払うよりも癒したくと聳え立つ大きな翼の一部を撫でる。
『疲れただろう‥?』と、
問いながら
ゆっくり、静かに‥──
それだけで
空へと向かった翼の先は崩れ、大きな金属音を響かせた。
「悪い、痛かったか?」
『大丈夫』
そう頷いた様子で傾きかけた大きな天翼。
段々と
風で崩れ落ちていく錆色……
触れずには居られなかった。
風に震え、音立てる片翼が『触れて欲しい』と言ってる様にしか思えなかった。
丘陵となっている飛翼の根城に膝を落とし、出来る限りと腕を伸ばして、緩慢な所作で身体を密着させ、零れ落ち崩れるナルトの抜殻を抱き締めた。
冷めた機体から伸びた翼をナルトの全容に見立て宥めるように…そっと、優しく。
「もう──‥、いい。もう…‥いいんだ。…──安心してゆっくり休むんだぞ…‥」
見届けられた。
最強とされた者を
最愛とした者の
最期を…──
何故だか
ナルトが今まで散々、見届けて来た景色までも看取った気になっていた。
「…約束、守れたよな。俺…──」
「こんな世界でも…‥俺達は最後まで恋人同士だったよな…?」
返って来ない言葉は
風が…──
広がっていく空の色彩が……
白い更地に伸びる影が‥‥
崩れ落ちる翔翼が…‥
応えてくれた。
『間違いなくオレ達は
恋人同士』
だと……
バラバラと降り落ちる
ナルトの粒子が
風に舞い、
俺を撫ぜるようにして
通り過ぎる…──
乱れた髪に纏わり
乾き切らない頬を掠め
襤褸(ぼろ)となり
汚れた衣服を靡かせ…
血塗れた指間を素通りして
徐々に地へ降り落ち、
積もった白を煤けた朱色で
染めて行く‥…──
静かに
瞼を閉じて
想いを噛み締める…
こんな抱擁も悪くはない
出会えたのは
奇跡なんかじゃなかった。
結ばれたのは運命なんかじゃなく
互いを求めた魂の一巡。
逢いたいと願い
叶える為に凌いだからこそ…
…──この時を
迎えられた。
手の内にある幸福は
もう独りじゃない、
とした日から知っていた。
離れていても一緒だった。
いつでも溢れていた。
身体(うつわ)を通り超して既に俺達は触れ合っていた。
やがて退廃と化し
形を崩して
塵となるだろう
それでも、尚‥──
愛する事を止められず、
融合する。
この侭
この場所で
お前と…──
この地の最期と共に…
咲き誇り、
散り行こう…──
これが
俺達の
“ 恋 ”の結末
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