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シカマルとキバ

明日も朝早くから町興しの作業があるっつーのに、何だか眠れずなオレは灯のねー川原を歩いて星を眺めていた。


「ワンワン!」


「コラ赤丸!そっちに行ったら危ないだろ、戻ってこい!」


チビっこい犬の鳴き声と聞き慣れたアイツの声に後ろ頭で組んだ腕を解く。


「よお、キバ。赤丸と散歩かァ?」

静まった夜の空間にオレの声を響かせるとゆっくりとアイツが振り向いた。

「あ!シカマル!!ジジィみたいに早寝早起きのお前が、こんな時間までほっつき歩いてるなんて珍しいな!」

「チッ、ジジィは余計だっつーの‥」


「ああ?…何か言ったかァ?」


「いーや、別に何も言ってねーけどよ。」


キバは耳があまり聞えない。
一緒に出かけた、あの日の空襲以来……
片耳の鼓膜をやられちまって…


だから、オレの不貞腐れた呟きは当然聞えなかった。


「何だよ、絶対なんか言っただろ?」

「言ってねーって‥…」

「嘘つけ、唇が動いてたの知ってんだぜ!」


「あ〜‥、赤丸は可愛いなって…」


「だろっ!!赤丸は可愛いよな…って誤魔化すなよ、本当の事言えって、このジジ丸!」


「ジジ丸?、オイコラ、そりゃねーだろが…。」



「赤丸、シカマルの口を割ってこい!」


「ワンッ!!」


キバの命令に忠実な小さな犬がオレに飛び掛かった。

「…うわ!」

加減出来ねー小さな刃が袖の服地をガブッと噛む。
ふざけたように身を捩り振って払おうとしたが、噛み付いたマンマの小さくてふわふわな白毛はブラブラとぶら下がって全然、離れる気配はなし。


「わ、わかった、わかった、正直に言うからよ。」


「よーし赤丸、離していいぞォ!」


キバの声に簡単に口を開けて着地した利口な子犬は、してやったりとした笑顔を向けて屈んだ飼い主の元へと真っ直ぐに歩いて、逆立った頭の毛を寝かし撫でる手に
「くぅーん」と鼻を鳴らし甘えていた。


「ちェッ、赤丸の奴が……羨ましいぜ。」


打ち鳴らした舌
漏らした言葉は、
わざとアイツに聞えないように小さく。


「…また何か言っただろ?」


本当は
良ーく聞えてんじゃねーのか?
………その耳
って疑うくれェにキバは敏感に反応するのが不思議だ。
しっかし
赤丸が羨ましいだなんて知れたら、明日オレ恥ずかしくてどうしたらいいか……、
俯いて鼻頭を掻き
キバに対して想いを馳せる独りごちを頭の中に巡らせていた。

そんなオレの襟を不意に両手でグイと掴んだキバはニヤリと笑い…
間髪入れずに額をぐりぐりと押し突けた。

アイツとの距離が縮まると鼓動が早くなっちまってマジやべー状態に‥…


「白状するまでオレの攻撃を食らえ、…ジジ丸!」


こんなに近くでアイツの吐息が……

唇が……――

よくある戯れってか、そういうのだけどよ
キバだからこそ妙に意識しちまって
困惑してしまい
下唇を内側に噛み締め、問い詰めから逸らそうと口を噤んでいた。

奴と目を合わせっと褐色の虹彩が近くて…
黙っていると跳ねっ返る鼓動が今にも聞えちまいそうな気がした…



「わかった、言うから離せって。」


「降参だな?シカマル降参か!」

「ん、…まあな…、めんどくせーし。」


舞い上がる気持ちを抑え切れねーかも知れねェ。計算する事さえ侭ならねェ口にしない方が苦しい言葉を口癖に置き換えて逃がした。

「ヒャッホーッ!やった赤丸!、シカマルに勝ったぜ!」


いくら男女関係なしにくっついても何のお咎めもねー世の中な訳だが…
同性同士の恋愛ってのはやっぱまだ偏見があるのは確かで、
周りの目は気になんねーとしても肝心のキバがどう思ってっかは知らねェ。

だから、先手先手を考えるオレとしたら……


星の綺麗な夜
アイツ二人だけの空間
この至近距離…


やっぱ
こんな状況でも何だか

怖い、…と感じるんだ。
確証なんてねーからな。


友達でいるなら距離を置きながらいつまでも一緒に居られる…


オレの気持ちを
キバに吐いちまったらーー‥

こうして赤丸と戯れる姿も近くでもう見れねーかも知れない。


サスケとナルトの事は
オレはオレで
そしてアイツはアイツなりに応援をしてた。

けど
てめーの事とは違うしよ。
とにかく確信出来ねーモンに怯え
いつもこの胸の早まる気持ちを抑えてるって訳だ。


衝動で失うよりか、
惰性でもこうして傍にいたくて…な。





「特別にジャーキーで乾杯しよーぜ、赤丸!」


ポケットから小指の爪くれェのジャーキーを取り出し
赤丸に待てをして、ヨシの合図を出す。


ジャーキーの欠片を嬉しそうに尻尾を振って食う赤丸

その様子を見詰めてる……アイツの笑顔。




無防備な愛くるしさ
枷が外れちまった…


欲って奴が顔を覗かせる。
その笑顔をオレに向けて欲しいと…



いつかは伝えてェ気持ち…

それが、ただ今日なだけ。

もしかしたら奇蹟が起こるかも知れねー気ィしたしよ?

そうやって
言い聞かせているしかなくなっちまったらしいオレは覚悟を決めて近寄った。


そして赤丸の頭を撫でる為にしゃがみ手を伸ばして
キバとの距離を縮める為に口を開く……。

「…キバとこうして居られるお前がマジで羨ましいぜ。」


「……え?……シカマルお前、……もしかして……」


「‥……ああ、…そのもしかしては、多分当たりだな。」


届いた発声に首を傾げ気味にしてオレを見詰めるキバが驚いたような顔を解き
ポンとオレの肩を叩いて距離をまた再び縮めると、息苦しいような感覚が消えて行った。

「…オレもシカマルと同じ事、思って悩んでた…。最近は特に…」


「…オレと同じって……マジでか?」

「…恥ずかしいけどよ、マジだぜ。」


「…キバ。」


まさか、まさかオレと同じ気持ちだったなんてよ…
だったら、こんなに悩んでねーで、もっと前に気持ちをキチッと伝えてりゃあよかったぜ…


「…気ィついてやれなくてごめん。オレさ、ついつい赤丸の事でいつもいつも頭いっぱいになっちまってたから…」


「……オレと同じっつーんなら、キバだってよ、…言えずに苦しんでたんだよな?」


慎重にしてたのは
大切だから…

それがオレの性分でと止どめてただけ気持ちは解る…


「ん、…まぁ、な。これでも一応…我慢もしてきたんだぜ。」

「だったら、謝るなって。」


茶色の髪をクシャリと撫でたら、はにかみ笑ったキバに
安堵して

視線を互いに交え

オレも自然と和らいだ微笑みを照らしていた…



「…大事にすっからよ。」


「…ん、ありがとな。オレも大事にしてく。こんな世の中だしな…」

視線を足許に下げて漏らした溜息が同じ気持ちだと知らせてくれた。

宥めたくて
またキバの髪を撫でる。
今度は優しく……


「少しだけどよ…まだあっから、明日は一緒に食おうぜ!
………ジャーキー!!



「━━…………。」

ジャーキー??

ジャーキー…って



赤丸が羨ましいっつったのをそう解釈するとはよ………――
ったく、マジで計算外だぜ。



「それは…赤丸とキバで食えって。」


「何でだよ?シカマルも食いてーんだろ!」

「…少ししかねーんなら…オレはいらねーからよ、な?」


「明日もココに散歩しに来っから、お前も来んだぞ!そしたら、みんなでジャーキー食おうぜ、なっ!なっ!」

我慢はするなと必至になってオレの腕を揺らして真剣にジャーキーを食う事を勧めるコイツ……

しっかし
ハッキリ言わなったのもなんだけどよ、
オレの覚悟をジャーキーに捉えるとは‥…――



でも
コレで良かったかもな?





こうしてキバへの告白は
また今度と先延ばしにして、笑い声を掲げた…。


「何で笑うんだ?」と問うキバに

可愛いから…とは言えずに……


「あらー、シカマルとキバじゃなーい!」

そんな折
オレ達の騒ぐ声に目を止め、橋の上からかける甲高い声に振り返る。


「よぉ、…いのにヒナタじゃねーか。」


「…こんばんは。」


「アンタ達、こんな所でなにしてんのよー!!」


「赤丸の散歩ォー!、いの達はァ?」


「…あ、…こんばんは…キバくん。私たちは、その…――」「ああ?聞えねーぜ?」

「ごめんなさ…
「きゃああああーーッッ!!」

急に響いた黄色い歓声にヒナタの声も掻き消えて、耳の遠いキバも流石に煩かったんか、顔を半分しかめた……が、いの達とは反対方向から来たアイツの姿が橋袂の灯に照らされっと、そのキーンとする声が発せられた理由も簡単に解けた。

「サスケくぅぅーん!!!」


「よぉ、サスケェ!お前も散歩かァ?」

いのの声に負けじとキバが元気な声を張り上げ
サスケの足を立ち止めた。
その視線が橋下へ向けられる。いのの存在をシカトするかに…。


「そんなとこだが……、お前らこそ何してる?」

「赤丸の――……「アタシ達はァ、配膳を手伝ってきた帰りで〜、これからサクラんトコに行こうって、コッチに来たんだけどぉ……、夜道はやっぱ女の子だけじゃあ怖くてぇ〜…だから、サスケくんも一緒に来てくれると助かるんだけどぉ‥…」

「…いのちゃん、…サスケくんはキバくん達に訊いたんだよ?……それに…何だか…困ってる……みたいだよ…」

「……サクラの墓か。…下の二人が行くなら、考えてやってもいいが…」


ヒナタの忠告にシカト決めて、サスケの腕をしがみ抱いて離さねーいのの勇気を少しばっか分けてもらいてェ‥とか思いながら、その提案にのる事にした。


「仕方ないわね〜、アンタら早く上がって来なさいよ〜!!」

何が仕方ねーんだか…
ったくよ…女ってわかんねーな。


「…めんどくせーけどサスケとは…つーか、みんなでなんて久し振りだしな。…いいぜ、付き合ってやるか。」


「マジでこーして集まるの久々だよな!よーしオレも行くぜェ、赤丸、走れー!!」


「ワンッ!」


赤丸を追って土手を駈け上がるアイツの後ろ姿に続いて合流した。

サクラの墓には一度行ったけど、毎日が目まぐるしくて
凄ェ久し振りに感じた…。

そう考えっと学校に通ってたのは
もっと遠い気がして

夜風に寂しさを感じ目を細めちまったが……

談笑して歩くキバが偶然クラスメート達と集合した事を嬉しそうにして声を弾ませ
そんなキバの笑顔とオレの隣を歩いてる姿を喜ばしく思えば一瞬だった……


何だか不謹慎かも知らねーけどよ、そんぐれェの幸せを感じたって罰は当たんねーわな…


なァ…、サクラ。


ふと、サクラを照らして瞬く星へと目をやった時、一つ星が流れた。


それが何だか
亡き級友が頷いたように思えて
願いごとを胸ん中で唱える事も忘れ足を止め、笑みを漏らしていた。



オレの真横につく足音が一つ、同時に止まった事に気が付いて視線をあてる。


頭に子犬を乗せた横顔の唇が小さく動き始める


「…………後少しのジャーキー、オレは…そのー‥…赤丸とお前に、食ってもらいてェんだ!」


「……はあ?…」


「…ま、そんくらい大事にしてんだって…そうゆー事だから…!」

「………あ?、…ああ。」

アイツも誤魔化したのか?
と思える頬の色から
アイツなりの精一杯の言葉と受け止めて
聞えない側の耳が都合よくオレの横側にあった事を利用しようと試みる。

「…そんなキバが……好き、だ。」

「あ?…何?…聞えねーよ。」


聞えねーように言ったんだ、馬鹿。


「明日聞かせてやっからよ、二人と一匹ぶんのジャーキー持って来いよ?」


「ジャーキーな!…任せとけって。」


「まーたくもおー!
何してんのよ‥二人ともォ〜〜!!」

静まった空の下で良く通る、いのの高い声に呼ばれ大好きなアイツの隣を保ち随分と前に進んだ三人の背中を追って駆け足並べる。



「そんなに走って大丈夫かよ、ジジィだから後で足腰にくるぜ〜!」

半分程に距離を縮めた頃合で
暗い道に伸ばされた手。速度を変えて歩き出した足…

揶揄を含めた言葉に「うるせェ。」と言い返しつつ、その手を強く握って…
三人の背中を見ながら小高い丘をゆっくりと登っていった。




明日は大きな声で
ハッキリ言ってやる

と心に決めて……







ジャーキーを楽しみに
待ち侘びて……




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あきゅろす。
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