Paradise blueー9
「 お酒でも、用意しましょうか。」
デイダラの話が途切れない中、母さんが腰をあげ一際大きく明るい声を弾ませ、温存していた酒瓶と簡単な肴を用意しようと、台所に急ぐ。
その声に反応して静かに襖が開かれた。
「 今夜は夜空が綺麗だ。縁側で月を眺め久し振りに盃を交わすのも悪くはない…。」
痺れを切らした父が襖を広くと開放した侭、庭へ赴き。
母さんを手伝うと嬉しそうな仕種で台所へと向かったデイダラの背を後に俺は父へと続いた。
「 …星や月が綺麗だな、サスケ 」
「 ……―――。 」
父さんと初めて肩を並べていた。
いつも話す事は兄さんの事ばかりで俺の名すら口にしなかった父が、珍しく柔らかな口調で俺に語りかけているのが珍しい。
「 …いつもイタチと比べていた。サスケ、お前が劣っていると言う訳ではないのにな…。」
顔を夜空に委託けた侭、語りかける父が
やけに小さく脆い人間に感じた。
幼い頃から威厳のある父は、大きく強い存在だった。
そしていつも父が自慢してた優秀な兄は俺の憧れでもあった…。
父もデイダラも俺に兄の面影を背負わせてた気がして
俺は俺の存在を表すように、兄を越えようと努力していた。
だが、ナルトに出会いナルトを愛してから
そんな下らない劣等感は消え去り、自分の価値感を得る事が出来た。
ナルトという小さな奴が、大きな存在になっていた…。
そしてアイツだけに認められたいと願っていた。
だからか、
ナルトの日記から
兄の死を知り、イタチとナルトの関係を知り………手前の事を棚にあげ、実は酷く嫉妬をし…後悔をしていたのだった。
未だに思う……
何故、ナルトと約束したあの時間にあの場所へ行かなかったのか。
もし、あの時
デイダラに絆されず、約束を守っていたら
ナルト
お前はイタチに俺の面影を映して感情を委ねなかったハズ……
謝罪と兄に己を投影させたという詰まらない自負とが交錯する。
曇りなく輝く星天を見上げながら
晴れない思いが降積もる…
「わぁ‥…綺麗な星空だな、うん。 」
摘みと酒を運んで来たデイダラが腰を屈めて盆を縁側に置き、覗く様にして夜空を見上げていた。
「サスケも飲む?弔いとして特別に今夜だけは許してあげるわ、ね?お父さん。 」
「…うむ。」
背後から僅かの間を空け、訊こえた母の声。
隣で腕を組む父が頷き答えたが生憎、そんな気分にはなれず。
満面に瞬く星を双眸に焼き付け、顔位置を元へとし踵を翻せば父の隣を空け距離を離し、丁重に断りを告げ。
履物を脱ぐと用意された酒肴を避けるように縁側へ上がりデイダラを横切る際、奴の肩を一つ叩き
顎先と視線で父の隣へと促して兄を偲ぶ語らいの場を委託した。
それから
縁側続きの廊下を単調な足取りで進み、父が入った後の湯を浴び湯船に身を浸らせ、息長くと吐いて、地下水の恩恵を預かっているが為、こうして何不自由なく風呂にも入れる事と、節制はしてる物の蓄えのある我家の食糧やらの事情を有り難く思う。
少し前までは極普通と言うか、当たり前だった。
この国に住む大半の人々が営んで来ただろう何不自由のない日常は
現在や困難な状況……。
そして
“生きている事”すら一握りだと知らされ
皆、弁えている。
過去と現状を巡らせながら髪を洗い、身体を洗い。
風呂から上がり身を整え、就寝の仕度をする際、視界に入る洗面台の鏡に映った己の姿にこれまでの存在感を問うか、虚ろにも見入り様々な事を照らしていた。
すると、俺に良く似た兄の残像たる微笑みが重り、目を瞠るが幻なる寸時の出来事に嘲り銀色の面を作りし拳の横側で叩き……
兄の死を漸く実感して息殺し………泣いた。
強く、賢くとした兄には未だ憧れる…――
兄、イタチは
国を守る為
愛する奴を守る為
命を落とした。
生きる事を望む
俺はナルトに守られてばかりで……
アイツを求めるばかりで……
不甲斐無い。
後、数日の間に
何が出来るのだろうか…
深く己に問く程、答えは見付からず……
ただ、徒に……
時だけが過ぎていった。
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