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里にまつわるエトセトラ

時間もまだある事だし、腹ごなしには丁度いいかとゆっくりと建ち並ぶ店構えを眺める。
花屋に甘味処、酒処に焼き肉屋と続く仲見世通りは店舗も様々で、里の中でも一番栄えているように見えた。
行き交う人の姿も多い。
余所者が珍しいのか、それとも男同士で手取られ繋ぎ歩く姿が物珍しいのか……、どちらかは知れないが好奇なる視線を一心に浴びる。
「どこの子だ?」といった疑問符が聞き取れた事より前者だと把握するも、ナルトはそんな視線や声に応じる事なく流し、ひたすら次なる目的の場所へと俺を引き連れた。

「今日は、そこの里役場で寄り合いがあっからか、今日は人の出入りが多いけど、まァ、気にすんなって。」

労うような言葉と笑顔。
そこと示した指先に眼を向ければ、木ノ葉の里役場と書かれた看板が留まった。
寄り合いと言うとさっき遭った綱手と自来也も此処に来るという訳か。

綱手とは、もう二度と顔を合わせたくはないのだが…。

「コッチ、この階段を登るってばよ。」

杉の木並ぶ高台へと続く石段を見上げ、それを登り行く。

「こっから見ると、里が一望できて気持ちいいんだぜ!」

随分と長い石段を登り切った処でナルトが踵を翻した。奴に合わせて登って来た階段側へと向き返すと、有機に満ちた偏狭の里を見下ろす事が出来た。
なかなか壮大な景観だ。

「こっからじゃ、ちょっと見にくいかもだけど、アッチに滝を挟んで、人の姿が彫ってある岩があんだろ?」

ナルトが指示す方位に、視線を伸ばすと、遠目からでも見事な二体の姿岩が映し出された。

「あの2人は、この里を創った忍者で、あそこは、終末の谷ってなトコ。」

「終末と言われる場所に創設の像を彫るなんて、風変わりな気がするが…。何か曰くでもあるのか?」

「昔むかし、戦力と領土拡大のタメってんで、全国のアッチコッチでチャンチャンバラバラってな合戦が繰り広げられた頃、知る人ぞ知るめっぽう強ェ2人の忍者がいたんだ。」

「それがあの姿岩の二人なんだな?」

「そう!正解!こっから見て、右側の、この里側にある岩の方のヤツは、忍の世界じゃ誰もが認める無敵の最強忍者!そんで、滝を挟んで向こう側の岩ヤツは、特殊な能力を持つ、最強の幻術使いとして恐れられていた忍者だったんだって。でな、こいつらは、どっちも優秀な忍一族の長で、この国で生まれ育った連中なんだけど、当時の忍者は、一国だけにとどまらず、依頼がありゃ全国どこの国にでも加勢しにいってたらくてさ。モチロン、この国の主も2人をおそれてビクビクしててな。そうしたコトもあって、こいつらと手を結びたがった主が、こいつらが率いる忍一族のみんなが何不自由なく暮らしていける土地と資金を与えて、ここに忍達が隠れ住む里を作ったんだ。それがココ、木ノ葉の里だってばよ。」

「…つまり、この国の主は、奴らに安定した居住地と生活を提供して共存させる代わりに、己一国のみと奴らに忠心を誓わせ、忍を使った戦略で他国を脅威に陥れたって訳か。」

「うん、そうみたい。」

「…なるほど、上手いやり方だな。これなら、己も寝首を取られず、兵力を減らす事なくと石高を増す事が出来るからな。」

「おかげで国の人々は、平和に暮らせるコトができた。そうした忍の功績を称えて、この山深い里に一族の長である2人の姿を崖に彫ったんだ。そこまではこの里の忍のみんなも争うコトなく仲良く暮らしてたんだけど…」

「…何だ?敵でも攻めてきたってのか?」

「アイツらに挑もうなんてヤツは一人もいなかった。そんぐれェ、強かったかんな。でもまァ、そんなトコかな。左側のヤツが裏切ったから。」

「…何故だ、うまい事やってたんだろ?」

「アレが出来てから、里の忍達の結束が強まって、一族だとかに囚われない生活を望むようになったみてーでさ。どっちかを火影ってな里長にしようってコトになってな。右側の最強忍者が、里のみんなの圧倒的な支持を得て火影になったんだけど、最初はそれに賛成してた左側のヤツが、そのうち火影と国の保守的な考えが気に入らねーってんで、一人で里を抜け出しちまったんだ。もともとヤツは忍のクセに天下を取りたかったらしかったかんな。火影にも2人で天下を取ろうだとかほざいてたらしいし、一族のみんなにも、陰謀を持ちかけてたらしくてさ。だから、火影にはなれなかったんだろな。」

「…で、奴が襲いかかって来たのか?」

「うん。ある日、突然ヤツが国に現れた。殺生石ってのに封印されていた化け狐を幻術で甦らせて、そいつを引き連れて、この国を襲ってもきたんだ。化け狐は火影の強い力で封印されて、左側のヤツもすぐに姿を消した。こりゃマズイってんでな。火影は、伝説の化け狐から国を守ったってんで、ますますと名をあげ、それを機に、他の忍一族のヤツらがこぞって、この里にやって来たりもした。けど、左側のヤツを味方に取り入れて、国を襲う武将も現れた。そのたんびに攻防が繰り広げられた。そんな中、里の外れにある、あの姿岩がある場所にヤツが現れ、火影と一騎打ちとなった。見たコトもねーような術と術、技と技とがぶつかり合う壮絶な戦いぶりは、大地を揺らし、山を崩して、あの2人の姿岩を裂いた。アッチとコッチと2人を二分するように、崖の裂け目から水がブワッと噴き出て、すぐに滝となり、谷となって川が流れた。」

まるで絵空事のような話だが、地方に纏わる伝説なんてのは、大抵そんなものだろう…。そう思うも茶化す事なく、続きを気にし、尚もナルトの話に耳を傾けていた。

「勝ったのは右側の、初代火影となった、千手柱間ってなヤツ。左側の…名前は忘れちまったけど、そいつは、テメーの姿をした岩の下で死んじまったんだと。」

「…禍を齎した奴の墓場から、“終末の谷”か。」

「それもあっけど、そんなコトがあったおかげで、この国は、最強忍者と忍一族の軍団を取りまとめた国ってんで、忍送りの国として天下取りの戦渦を逃れ、戦乱の世を中立しながら、国と里の平和を守るコトができたらしくてさ。だから、争いが終わりになったって意味で、“終末の谷”って呼ばれるようになったみたい。」

「…しかし、その伝説が史実だとしたら、凄ェ話だよな。」

「まァ、ただのお伽話だかんな!」

後ろ頭で両手を組んで、ニッと歯を剥き出し、ナルトはそう言って笑った後、神妙な顔付きをして蒼天へと視線を馳せた。

「…でも“火の意志”って呼ばれる火影さんの意志、眼に見える欲に囚われず、眼に見えねー大切なモンを守り通すってな強い気持ちが、この里に住むモンに受け継がれてるってな言い伝えだけは信じてんだ。」

金髪碧眼の風貌が、日本古来の伝奇を持つ種族との程遠さを感じさせる。
だが、澄んだ瞳の奥には、間違いなくその志が受け継がれている事だろう。凜としたナルトの横顔が、俺にそれを証明していた。

「サスケとは、昨日会ったばっかで、こんなコト思ったりすんのはオカシイかもだけど…」

此方へと向くと、ナルトは照れくさそうにして俺を見上げた。ころっと変わった表情には、何故だか鼓動が跳ね上がった。

「…何かさ、お前とは、運命みてーなモンを感じるんだ。何でかわかんねーけど、だから…」

恥じらう表情と青空のような瞳に吸い込まれる。ナルトより俺の方が動揺しているようだ。
妙な気分に囚われる。

「……ナルト。」

「…サスケ。」

お互いの名を呼び合い、見詰め合い、どちらともなく自然と互いの距離を近付けていた。
友情とは明らかに違うと解る感覚が広がる。
初めて他人から好意的な感情を見せ付けられて、それを臆するも、ナルトと接するごとに感情が高鳴ってゆく。
この気持ちの根拠なども、わからねーが、今はナルトと二人で、この気分に浸っていたい。

ふわりとナルトが唇を開く。何かを示すように。
俺はそれに応じるかに角度をつけ、顔を斜めへと倒し掛けていた。

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