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ラーメン紀行

山間の里周縁を囲うような緩いカーブを曲がって暫く行くと、今度は真っ直ぐな一本道が広がった。その沿道には屋号が軒を連ね、丁度真ん中辺りの高台には、朱い鳥居が聳え建っている。

「ここがオレとイルカ先生ご用達の日本一のラーメン屋、一楽だってばよ!」

アナクロニズムな景色を見渡すように視点を遠方へとおいていたため、気付かなかったが、この路地手前に建つ屋台のような小さな佇まいが、どうやら目的のラーメン店らしい。
一楽と書かれた暖簾を潜るナルトに続き、カウンター席しかない狭い店内へと踏み入れる。

「オッチャーン!!、味噌ラーメン、チャーシュー大盛り一つ!」

「あいよ。」

席に着いたと同時、張り上げた馬鹿デカイ声。即座に気難しそうな店主が注文に応じ、早速と調理に取りかかる。
物珍しくと狭い店内を見回し、ナルトの隣へと腰を降ろす。
壁に貼ってある品書きを眺めていると、コップが並べられた。

「いらっしゃい。アラ、初めて見る顔だけど…学校のお友達?」

店主の娘だろうか?
あまり似てないが、閉鎖的な里故にそんな感じがした。

「友達は友達でも、コイツはオレにとって特別な親友だってばよ!」
たった1日でそう言い切れるもんなのか?
俺を親友だとナルトが言う度に疑問が沸くが、まァ、どうだっていい。

「お友達は何にする?」

「オレのお勧めは味噌ラーメン、チャーシュー大盛りだけど。」

「…醤油でいい。」

「オレのお勧めは味噌ラーメン、チャーシュー大盛りなんだけど!!」

「……醤油じゃ駄目なのか?」

「ダメじゃねーけど、醤油よか味噌の方がオレは日本一ってしてっかんな!」
「味噌が日本一なら、スタンダードな醤油も日本一なんじゃねーか?」

「ふむ。そっちの兄ちゃんの言う事も一理あるな。」

「オッチャンがそういうなら、サスケは醤油でいいってばよ…。」

「お父さーん、醤油一丁!」

「あいよ。」

湯気立つ店内は戸がなくても幾分かは暖かく。職人気質の店主の手際良い捌きにも、期待が寄せられる。
余りラーメンというものを食した事はないが、立ちのぼる匂いも食欲をそそられ、決して空腹ではなかったが、早く口にしたいと願っていた。

「味噌チャーシュー大盛りお待ち!」

先にナルトが注文した味噌ラーメンが狭いテーブルに差し出された。
チャーシュー大盛りとの事だからか、表面が全て燻じられた豚肉で埋まっている。麺すらも見えない程。

「きたきたきたァー!!、コレコレ、コレだってばよ!そんじゃ、早速いっただきまーす!」

チャーシューを一枚、口へと運べば、麺上に長葱が散らされているのが垣間見えた。野菜はそれくらいしか見当たらない。
意外にシンプルだ。

「あいよ、醤油あがり!」

ドンと雑に置かれた丼から漂う濃厚そうな香りが食欲を掻き立てる。
割り箸を手にして、熱い丼に片手を添え、香ばしい湯気で暖を取りつつ、その味を口にする。
細麺に絡む、琥珀色のスープ。その相性の良さが何とも言えず、ズルズルと啜り込む。

「な!うめーだろ!!」

確かに美味い。
以前、有名なラーメン店で兄さんと食べたものよりもだ。

「ああ。こんな美味いラーメンは初めてだ。」

「チャーシューも超うめーから食ってみ!」

促されて比較的大きなチャーシューを箸で摘み、口の中へと放る。

「!!?」

「どう?、超うめーだろ?」

僅かに軽く噛んだだけで、口の中で広がる肉汁と旨味。舌の上で蕩けるような食感は高級なブランド肉に近しいものがあった。
「…美味いな、俺も日本一だと思うぜ。」

「だろー!!だろー!!、なあ、オッチャン聞いたかよ!うまいモンばっか食ってる東京モンのサスケが日本一って認めるくれェ、やっぱ最高なんだってばよ!!オッチャンのラーメンは!!」

まるでテメーが褒められたかのように喜ぶナルトを眺める、店主の顔が少年のように綻んだ。
店を手伝う娘も嬉しそうだ。

「サスケ君、東京からきたの?」

「そうだってばよ!サスケは、日本一のラーメンを求めて、今日ココに来たんだってばよ!!」

…何故そうなる?

「じゃあ当然、行列の出来る有名なラーメン店とかも食べた事あるんだ?」

「そうそう!テレビに出てる店とか色々!なァ、サスケ!!」

「…確かにそういった有名な所で食った事もあるが、別にそんなつもりで来た訳じゃ…」
「なに照れてんだよ!昨夜からすっげー楽しみにしてた癖に!」

それはナルト。お前だろうが。

「じゃあアレだ。ブログだとか、レビューだとかに書かれるんだな。一楽は日本一のラーメン屋だってな具合に。」

ブログやらレビューやらを書いた試しはない。そもそも俺はラーメン食べ歩きなんてのもしちゃいない。だから、親父。そんなキラキラした眼で俺を見るんじゃねェ。

「東京帰ったら、コイツってば、きっとそういうのバンバン書きまくるだろーからさ。そしたら地元の連中だけじゃなく、全国にも広まって、テレビになんかも出ちゃったりして!」

「調子に乗りすぎだぞ、ナルト。」

「そうか…、テレビか…。じゃあ東京の兄ちゃんの分は宣伝費って事でお代はいらねーからよ、ブログやレビュー、宜しくな。」

……ブログは無理だが、仕方ない。どこかのクチコミ情報サイトにでも書き込んでおくか。
空腹だった訳じゃねーのに、スープも残さず完食しちまった程、味は確かだったからな。

「ごちそーさまァ!!、ふぅ〜、食った食った。んじゃ、味噌ラーメンチャーシュー大盛りの分、ココ置いとくってばよ。」

「あいよ。」

「また来てねー、サスケくーん!」

「…………。」

重荷を背負いながら暖簾を潜り、外へ出る。

「へへ、儲かった分、ちょっとだけ寄り道してくかな。」

そう言ってニッと笑うと、ナルトは俺の腕を取った。来た道とは反対の方向へと引っ張る奴の足取りに合わせ、惰性のようにして、規模のない仲見世へと歩いていった。


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