里めぐり
天気が良い事もあり、散歩がてらにそろそろと腕を引っ張るナルトの儘となり、荷物を持って玄関へと足を運ぶ。
イルカ先生を呼んでくるとナルトが廊下を走ろうとしたその時、ナルトの母親と出くわす。
「丁度よかった。イルカさんからコレ、預かってきたってばね。」
ナルトに紙幣が渡される。
「イルカさん、急用が出来たから一楽には行けなくなったって。」
「えー!?、何だよソレェ!!」
「明日の事で三代目に呼び出されちゃったのよ。でも12時過ぎにはコッチに戻れるから、お客さんは約束通り送ってくそうよ。」
「ちゃあんとサスケを送ってくれんならいいや。」
手にしたラーメン代を首ぶら下げたガマ口財布に収め、ニンマリと口端を広げる。
「そんじゃ、オレ達だけで行ってくっから!」
貴重品以外の荷は預かっておくと申し出るナルトの母親の言葉に甘え、リュックを渡す。
「時間までには必ず戻ってきなさい。イルカさん、そういうのキッチリしてるから。」
「はいはい、わかってるっばよ。」
「“はい”は一回!」
そう叱るナルトの母親の背後より、複数の足音が廊下に響いた。
「何じゃナルト、お前らも出掛けるんか?」
「エロ仙人たちもデート?」
“も”とはなんだ?“も”じゃなくて“は”が正解じゃねーのか?
ナルトも母親も、その天然なる毛色や瞳色からして、日本人とは思えないからな。細かい指摘は止すとしよう。
それより、一番見たくもない相手が視界に入ったのが不愉快だ。
「寄り合いなんかじゃなく、これがデートだったら嬉しいんじゃが…――。のう、綱手?」
「別に嬉しくはないがな。」
その淡々とした声にも苛立ち、落とした掌を強く握って感情を逃がす。
「相変わらず冷たいのォ。昨夜はあんなに…――だったというのに。」
自来也の太い首筋に残された数個の鬱血。それと同じくな箇所を赤く染めた綱手の首筋。双方が言わずもがな二人の関係を主張している。
昨夜ナルトから聞いた“慣わし”を思い返せば、安閑と拳を解く。
しかし、与えられた屈辱は忘れやしない。
「くだらん事はいい、私は先に行くぞ!」
余計な事との警告を憤怒で表し、我先にと外へ出た際、全くと俺を無視してくれたのは有り難かった。
「まあ、縁があれば必ずまた会えるからの。」
すれ違いざまに、頭上へ軽く乗った大きな掌。餞の詞はナルトを指してと視線で合図する。
「じゃあな、坊主。達者でな。」
やがて、武骨な五指を退かせて、綱手の後を追い、走り去っていった。
連絡先は交換したものの、数時間後に離れ離れとなってしまう。そんな関係だからこそ、不必要にも名残惜しいのだろうか……―――
敷居を軽快に跳び越して、此方へと手招く笑顔が暈けた焦点に宿り。朗らかなその容姿を追うかに玄関を跨いだ。
澄んだ空気を吸い込むと鬱蒼とした気分が晴れる。垣根に寄せられた残雪に反射する陽が春めいていて思った以上に暖かい。
「思ったよか、今日はあったけーのな!」
こんな所は気が合うようで、ふと口許が緩む。
家を出て数メートルの地点、ナルトが指差す方向を見やると、木ノ葉診療所なる看板が目に入った。
「ココは綱手のバアちゃんが開業した、この里唯一の病院だってばよ!」
二階建ての民家なる、たたずまい。人が住むには十分なスペースを確保しているのが外観からでも判断できる。診療所と掲げてるなら、入院施設はない筈。なのに何故、アイツらはナルトの家に住んでいる?
何か居住出来ない理由でもあるのか?
ナルトにそれらを問うと、青色の瞳を不可解そうに瞬いた。
「綱手のバアちゃんはさ、シズネのねーちゃんが学会だか何だかで出かけちまって、飯が食えねーってんで、ねーちゃんが帰ってくるまでうちに泊まってるんだ。…で、エロ仙人は里帰りついでに、くだらねー小説ネタを仕入れに来たらしくて、しばらくうちに厄介になるっつって泊まってる。エロ仙人とバアちゃんはオレの家族じゃねーし、2人は夫婦なんかじゃねー。まあ、色々とあるみてーだけど?」
「何だ、そうだったのか。」
「安心した?」
「なぜ俺が安心しなきゃなんねーんだ?」
「あんなコトされてバアちゃんに惚れたとか?」
「…嫌な事を蒸し返すんじゃねーよ。」
「あ、…わりィ、わりィ!」
そう謝る口調に伴い、態度も軽々しい。
「なァなァ…。」
「なんだよ?」
「サスケってさ、好きな子とかいる?」
「そういった事には興味がない。」
「お前、結構イケてっからモテるだろーに、なんかもったいねーな…。」
「そういう問題かよ。」
「じゃあさ、友達はいっぱいいる?」
「………――お前くらいだ。」
「え?なに?なに?小さくて聴こえねってばよ。もっかい聴こえるよーにおっきな声で、お願い!!」
「生憎、同じ事は一度しか言わない主義でな。」
「なんだよ!お前がボソボソしゃべっから、聴こえなかったってーのにスカしやがって!!」
「そういうナルト、お前こそ、どうなんだ?」
「好きなヤツはいるけど、サスケには、ぜってェー、教えてやんねーってばよ。」
語調を強め、べーっと舌を出したのは、先の問いを素っ気なくした所為で機嫌を損ねたからだろう。
それからは互いに口を閉ざして歩き。軒先に野菜やらの食材を並べる商店を通りすがりに垣間見ると、「何でも売ってるお店」だとぶっきらぼうに言付けられた。
その先を行くと民家は疎らとなり、田畑が続いた。
こんな地域からして農業が盛んなのは知れる。
「よォ!ナルトじゃねーか!?」
小さな白い犬を連れた奴に声かけられ、前方で集う数人の輩の輪へとナルトが駆け寄る。
見かけからして同級に思える連中と談笑する間には立ち入らずと、道端に寄り。奴らには背を預ける形で、田畑向こうに続く雪被った山々を眺め。今日こそは己の使命をこなし、帰宅しなければ…と心する。
宝剣である物を持ち出す許可はあるが、バレずに運ばなければならない。
まァ、まさかこんなガキが宝刀を持ち歩くなど、誰も思わないだろうが。昨日の事もあるからな。兄さんの忠告通り念には念を…だ。
未だ本当にそんな貴重なる品が存在するのかと疑ってはいるが……
「なーにボッチ決めてんだってばよ!」
考え事に浸っていた為、不意に背後より叩かれた肩に酷く驚き、ビクリと心臓が跳ねた。
「みんなに紹介してーから、サスケもコッチ来いよ!」
俺は紹介されたくない。そんな気持ちを伝えられず、何故だか無理強いて引っ張る腕にも抗えず。引力に足を取られ。こちらを注目する三人より、一歩下がる位置で足止めて断固と動かず。奴らから目を逸らした。
「コイツはサスケ!東京からきた、オレの親友だってばよ。みんなヨロシクな!」
「……。」
物珍しそうな視線が突き刺さる。こういうのは苦手だ。
「東京からか!すげー遠くからきたんだな!! あ!オレはキバってんだ、ヨロシクな!」
先ずは犬連れの奴が名乗りをあげた。
明朗に笑う様子から性質はナルトと似ている感じがする。
「ボクはチョウジ。東京なんていいなァ。甘ァいお菓子のお店とか、有名な食べ物屋さんとかたくさんあって、すっごくおいしそう。」
脂っこい菓子を頬張る小太りな奴は、食い物にしか興味がなさそうだ。
「確かに都会は色々と不自由はねーし、便利っちゃ、便利だろーが、別にどーって事ねーよな?」
耳にピアスをした奴は俺のように戯れを否うタイプに見える。
「…ああ、別に大した所じゃない。」
「オレは奈良シカマル。一応ヨロシクな、色男。」
「…で、サスケは明日のアレに参加すんのかァ?」
キバという奴の問いに、ナルトの顔色が変わった。最初はハッとして、それから厳しいものに…
「…サスケは里のモンじゃねーし、今日帰っちまうから…」
「あっ、そっか、そりゃそうだよな。…ワリィ。」
「いいなァ。ボクも参加したくないよォ。何であんなコトしなきゃダメなんだろ…」
菓子を頬張る手を止め、深い溜め息を吐いたチョウジ同様、ナルトも憂鬱そうだった。
一体、アレとはどんな行事なんだ?
「そ、そうだ!!」
己が振った話題により、招いた気不味さを払拭したいのだろう。キバは作ったような笑顔を振り撒き、愛玩している子犬を俺へと差し向けた。
「コイツは赤丸!ちっこくて、かわいいだろ?」
「…ああ。」
抱き上げられて甘えるように掠り鳴く、子犬の白くてふわりと毛立った頭を柔らかく撫でる。
コイツが取り繕う場に合わせ。
「よかったな、赤丸!」
諂笑うキバとの会話に間が空くとナルトに肩を叩かれた。
「一応、みんなんちを案内しとくな!ココがキバんちで、ずーっとアッチがシカマルんち。シカマルんちの裏山には鹿がいっぱいいて、煎餅やると喜ぶってばよ!」
相次いで誤魔化すかにナルトが笑う。その横でキバを窘めるように見据えるシカマル。
余所者には知られちゃ不味い行事なのだろうか。雰囲気からしてそんな感じがした。
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