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希望の朝

「サスケ、サスケ。」

体を揺さぶられる感覚はあるが、意識はまだ浅い眠りの淵で、布団の中で丸まるように眠っていた。

「起きろってばよ!」

更に激しくと揺さぶる手と、大きくなる声に薄らと瞼を開く。

「朝飯、一緒に食おーぜ!!」

朝飯?
もうそんな時間か…。それにしてもやけに薄暗くて、深々とした寒気がする。いつもの都会の朝とは違う。昨日の疲れもあってか体も重く、とても起きて直ぐさま朝食を摂る気になれない。

「…もう少し寝かせろ。」

俄かと開いた瞼が自然と重く閉じる。
騒がしく喚く声と、窓を開け雨戸を放つ音は何となしに耳に通るも、意識は眠りへ傾く。

どれくらい眠ってしまったのかは把握してないが、さっきよりも大きくと体を揺さぶる重みが目覚めを強要する。

「もう随分経ったってばよ!オラ、いい加減起きやがれ!!」

雨戸を開けた大きな窓から射す朝陽が、残雪に照り返り、瞼の裏側にまで光を繁栄させると、寝起きの悪さを露天しながらに眇みつつ、覚醒した。

「……――。」

「起きたか!?」

「……ああ。」

「んじゃ、飯食おーぜ!!、オレってば腹ペコペコだし、さっきっから母ちゃん呼んでるしさ!」

俺の腕を引っ張り、体を起こす手に導びかれるまま布団を離れ、肩に羽織られた褞袍(どてら)に袖を通す。
朝食を摂る気分ではないが、繋ぐ手の引力に負けて食卓についた。
俺とナルトの分しか膳が揃ってなかったのは、皆もう済ませてしまったからだとナルトの母親は云う。おかげで綱手とかいう名の女と顔を合わさずに済み、ホッと胸を撫で下ろす。

「お早う。体はもう大丈夫?」

「もう大丈夫だよな?なぁ、サスケ!」

「…ああ。」

「そう。それなら良かったってばね。」

微笑むナルトの母親から手渡された味噌汁の香りに食欲を促され、椀に口を添え付け。それをゆっくりと啜り込めば体中に優しい味が広がり、五臓六腑が暖められた。

点けっ放しのテレビが全国的に良く晴れ、平年よりも随分と暖かい1日になるだろうと告げている。
幸先の良い日和になりそうだ。


お代わりをするナルトが皿を綺麗に平らげる頃、テレビの音声に耳を傾けながらの朝食を終える。
「ご馳走さま」と席を立てば、その場にて満腹で寝転がっていたナルトが起き上がり、部屋へと向かう俺の後に続いて階段を昇っていた。

「昼はイルカ先生の奢りで、一緒に一楽のラーメン食うってな約束、覚えてるよな?」

「…ああ。だが本当に良いのか?」

「モッチロン!」

「時間が気になるが…。」

今更な質問だが、今日帰れないのは非常に困る。

「どう考えたって夕方のバスには間に合うからへーきへーき!」

そう暢気に笑うナルトも当然のように部屋へ足入れる。
いつの間にか布団は仕舞われ、小さな炬燵の上に蜜柑が置かれていたが、ナルトはそれを気にも止めない様子で、其処へと座り。テレビのリモコンに早速と手を伸ばし、アニメ番組にチャンネルを切り替えた。

俺はナルトを後目に着替え、簡素な荷物を纏め。それから部屋に用意されていたタオルと使い捨ての歯磨き用品を手に、部屋の戸を開けた。
「あ!オレも!」

アニメを観る事を諦めて後追いしてきたナルトと、洗面所にて隣並びに歯を磨く。
何が楽しいんだか解らないが、ニコニコと笑って大雑把に歯ブラシを揺らしている。
その後、邪魔だと云わんばかりに洗面台を占領しては豪快に口を濯ぎ「サッパリした!」と爽快に笑い。未だ歯を磨く俺に呆れ顔を向け、「長ェよ!」と文句を垂れた。



そうして身支度を整えたそれからもナルトは何をする訳でもなく、執拗と俺の傍へ位置付いた。

もし弟が居たなら、こんな感じか?
俺も幼い頃は兄さんの後を散々追い回していたからな…。
そんな事を思い描きいて、フ…っと笑息を零す。

「なに笑ってんだァ?」

「…何でもねーよ。」

「何でもなくて笑うんかよ? ヘンなヤツ。」

「お前こそヘンだぜ?」

「ドコが?なんで?」

「見ず知らずの奴を泊めたり、こうして用もねーのに引っ付いてきたりしやがる。」

「だって、うちはそーいうトコだから。 それと親友だから、一緒いるんだってばよ!」

更に寄り付いては俺の左肩に顎を乗せ、ニィと磨いたばかりの並び良い白い歯を広げ見せて笑う。ナルトの馴れ馴れしさを親しみと受け入れはするも、気恥ずかしさと困惑が入り混じり、容易には合致出来ず。「なんだよ、それ…」とだけ告げて、一瞥した。
ナルトは離れる事なく「へへッ」と笑って此方ばかりを真っ直ぐに見つめている。これまで人とのそんな関わりがなかったからか、そんな視線と微かな重みも何だか照れ臭い。
誤魔化すように使い物にならない携帯の電源を入れ、時間を確かめる。
すると、それに飛びつくように視線が下った。

「ソレって何?」

「これか?これは携帯電話だが。」

「ええッ!!、コ、…コレが噂の携帯電話ってヤツだったんか!?」

「…ああ。」

「へェ〜、随分とちっこいんだな。本物は初めて見たってばよ…。」

物珍しそうに眺めるナルトの手に携帯電話を渡すと大きな瞳が輝きを増した。

「何かすげーな、コレ!都会モンはみんな持ってるんか?」

「大抵はそうだろな。」

「ふーん。やっぱ便利?」

「…まあな。」


「オモチャみてーだけど、家の電話とかもかかるんか?」

「ああ。」

「じゃあさ、うちの電話番号教えっから!……だから、お前の携帯電話の番号、教えちゃくんねーか?」

威勢良く申し立てるナルトの頬が何故か赤らんでいた。だがそれは瞬間的だった。

「……ダメ?」

現実を弁えてか、遠慮がちに弱る口調。噛み締める唇。寂寥に翳る碧の上目。携帯を握る手さえ、切なさを訴えてるように感じる。

「ダメな訳ねーだろ。」

「ヤッター!!、んじゃ書くモン持ってくるってばよ!」

打って変わって立ち上がった笑顔は現金そのもの。隣の自室へと急ぐ喧しい足音は、此方に戻る時も同様。
嬉しそうに生徒手帳に走り書いた数字を繰り返し暗唱しては、間違いはないかとしつこく問いた。
そして携帯のアドレスデータに打ち込んだナルトの家の電話番号を照らし合わせ、満足げに笑う。

「じゃあ早速、かけてみちゃおっかなァ〜。」

「残念だが、電波が通じてねーから、かからねーよ。」

「電波?」

「ここに圏外って表示されてるだろう?」

「うん。」

「この表示があると電話は勿論、一切の通信が遮断されちまうんだ。」

「…ふーん、全然使えねーな、携帯。」
「ああ、ここじゃあ無意味だ…。だが山を降りれば通じるからな。夕方過ぎなったら、かけてみろ。」

「わかった!でもやっぱ、今かけてみるってばよ!!」

無駄だと言っても聞きやしないで、元気良く足音を鳴らし階下へと飛び出す。
暫く戻らないのは諦めずと、何度もダイヤルボタンを押しているからだろう。

その数十分後、ガラリと乱暴に戸が開いく。

「電話するたんびに留守番してるってな、ねーちゃんがさ、電源が入ってねーか、電波が届かねートコにいっから、メッセージをどうぞって言うモンだから、そのねーちゃんに、いっぱい伝えてきたってばよ!」

一体、何をどれだけ伝言したのかは解らないが、得意満面な表情はやけに楽しげで嬉しそうだった。






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あきゅろす。
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