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Lunatic gate-5

幾らかの緊張と懸念が薄れると、不意をついたように腹の虫が、ぐぅぐぅと鳴り始めた。

「そういや、夕飯(メシ)食ってなかったってばよ…」

玄関ロビー近くにあった院内の売店は、サスケの処置を待ってた時分には、既にシャッターが降りていた。その事より、食堂ももう閉まっていると考えられる。

「確か、入り口んトコにパンだかお菓子だかの自販機があったよな。アレ、それってば花だったけ?」

曖昧な記憶を辿り、確かめに行こうかと考えた時だった。
コンコン…とドアをノックする音がし、そしてそれが開いた。

「あ、オッサン。どうした?忘れモンでもしちまったんか?」

「いえ、これをナルトくんに渡しに来たんですよ。」

「へ?」

差し出されたコンビニのストア袋を手に取り開くと暖められた弁当とおにぎりが入っていた。

「夕食もまだだったからお腹が空いたでしょう?出来合いのもので申し訳ありませんが、良かったらどうぞお召し上がり下さい。」

「サンキュー!!、ちょうど腹減ってグーグー鳴ってたトコでさ。何か買ってこよーかなとか思ってたんだ。だからさ、すげー助かったってばよ。そんじゃ早速、いっただきま〜す!」
「そうですか。喜ん貰えて良かったです。デザートと飲み物も買って来たので冷蔵庫に閉まって置きますね。」

「オウ!わりィな!!」

「パンとお菓子は戸棚に置いときますから夜食や朝食にどうぞ。」

「…オウ。」

買い出した分量からして鬼鮫も空腹なのだろうと察しをつけたナルトは、封もまだ切ってはいないおにぎりを二つ鬼鮫に差し出した。

「ホラ、食えって。オッサンもさ、腹減ってんだろ?」

「いえ、実はさっき車の中でそのおにぎりを三つほど頂きましたのでお気使いなく…」

「ふーん、そんならいいけど。」

「あ、そうでした。看護士の方から先ほど説明を受けたのですが、このソファーは背凭れを倒すとベッドになるそうです。それと布団は此方のクローゼットの中に有りますので適当に使って下さい。との事です。」

「わかったってばよ。」

「あとですね…」

「ん?まだ何かあるんか?」

「点滴が終わった頃、看護師さんがまた来るそうですが、何かあったら、このナースコールで知らせて下さいと言ってましたので、宜しくお願いします。」

「うん、わかった。サスケに何かあったらそうするってばよ。」

「では、私はそろそろ屋敷に戻らせて頂きますが…。後は頼みましたよ、ナルトくん。」

「オウ、色々ありがとな!気ィ付けて帰んだぞ、オッサン!」

「はい。」

食事を摂るナルトに微笑みを放ちながら軽い会釈をして、鬼鮫は病院から立ち去った。


おにぎり二つを残して、冷蔵庫に仕舞われたお茶を飲み、またベッド脇に置いた椅子に腰掛け、サスケの寝顔を静かに見入る。

一時間が経過した頃、点滴が空近くとなり、ナルトはその事が気が気でなく。ナースコールを押そうかどうか悩みつつ、手を伸ばした。
するとその瞬間にドアが開き、新たな薬液を用いった看護師が病室に訪れた。

「もう少しね、あと五分くらいかしら。」

掲げられた液袋と落ちる滴の残量を計り、独りごちる。

「また点滴するんか?」

「そうね、あと二本は打つ必要があるわね。」

受け答えながらに熟れた手付きでテキパキと点滴の薬剤を取り替えてゆく看護師の手際を眺め、邪魔にならぬようナルトは口を噤んだ。
それが済むと今度は点滴針のない側の手首に数本の指を添え、脈を計りつつ脳派の波形を見遣る真摯な眼差しに息を飲み込んだ。
施しが済むなり、柔らかい笑顔をナルトに向ける若い看護師に一寸だけナルトはドキッと鼓動を跳ね上げた。

「今度のは二時間くらい掛かるから、23時過ぎくらいにまた来るけど、その間に何か変わった事とかあったら遠慮しないで、すぐナースコールで呼んでね。」

「…わ、わかったってばよ。」

「じゃあ、またね。」

看護師が出て行くとふぅ〜と息を一つ吐いて椅子に座り直す。

深く眠るサスケの寝顔を眺め、フと微笑み。脈を計るのに掛け布団から取り出されたダラリとした力ない手を両手で握り締め、祈るように瞳を閉じた。

暫くそうしていたナルトだが、いつの間にやら眠ってしまったらしく。気が付くとカーテンから暁光が射し込んでいた。
「いっけね!」

慌ててベッドに突っ伏した頭を擡げ、身体を起こす。
すると背中に掛かっていた毛布が床にスルリと落ちた。

あの看護師が掛けてくれたものだろうか?
部屋の電気もスタンドライトのみとしたのもきっとそうだろう。

サスケの手を恋人のように握り締めたまま寝入ってしまった事に気付かれてしまっただろうか…
そう考えると、何故だか妙に恥ずかしくなり、頬が熱くなった。

それは看護師にどう思われたかと言うより、サスケに対する理不尽な想いに気付かれてしまったかどうかを気にしてのものだった。

そう、ナルトはいつの頃よりかサスケに友情以上の想いを抱いていたのだ。
それこそ、口にしてしまったらサスケに拒否され、全ての接点を失ってしまう、そんな想いだ。

毛布を畳み、クローゼットに戻して、カーテンを開け、夜明けて明るみを広げてゆく空を眺める。

未だ眠りから覚めないサスケに見向けば、点滴の針は外れ、薬液のない機材のみが傍に置かれ。脳派を計る機材も静かと、その配線も外されていた。

それを見て安堵し、窓を放ちて外気を取り入れ、心機一転するかに胸幅を広げ深くと呼吸し明け空を見上げ、野鳥の鳴き声を耳入れていたナルトの背後より、衣擦れる音がした。


「……うっ。」

「サスケェ!!」

振り返えると半身を起こすサスケの姿が瞳に宿り、介助するように手を添え、嬉々とした笑顔でサスケの覚醒を喜ぶ。

「…ここは…何処なんだ?」

「病院だってばよ!お前ってば、突然暴れだして、そんで!!」

「……そうか。」

「でもよかった、お前がサスケが目ェ覚ましてくれて…」

ナルトは嬉しさの余りに半身を起こしたサスケに抱きつき、その感激より一縷に滴った頬を擦り寄せた。

カブトから聞いた事柄など、すっかりと忘れて安感と喜びに浸って。


「……――サスケ。
それがオレの名か?」

「…え?」


「…お前は誰だ。」

「!!?」

サスケから身を剥がすと、表情を失せた相貌と何の温度も持たない鉛珠のような暗く重たげな色合いの双眸が、瞠る碧い瞳に翳りをつけるかに深くと映り込んだ。


昇り掛けた朝陽にどんよりとした雲がみるみると勢いをつけ、一面を繁茂し尽くしてゆく。
ベルベット色の空に焦がれた明星が溶融したような雫を落とす。

ぽつりぽつりと窓枠を叩き跳ねる水輪が、大きな連弾となり降り注ぐ。
新たとなる二人の前途を予兆しているかのような薄暗い空。
激しい雨音だけが、病室に響き渡っていた。




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